(1)オ−ロラが発光している高さ

 オーロラ現象そのものについては紀元前から知られており,多くの記録が残っています。初期のオ−ロラ研究で多くの注意を喚起したのは,天空のどの高さの現象なのかということでした。多くの研究者が挑戦したが,決着をつけたのはノルウエ−の物理学者C.ステルマ−だといわれています。彼は助手と二人で,数10km離れた2地点(図1のA,B点)からオ−ロラカーテン下端の1点(図1のD点)を同時撮影し,オーロラカーテンの背景に写っている星座の位置がずれるのを利用し,三角測量の原理に基づいてオ−ロラの高さを推定したのです。4万枚にも及ぶ写真を丹念に調べ,高さを求めたと伝えられています。遠く離れたA,Bの2地点で同時に写真撮影するための連絡に,ノルウエ−の電話会社が全面的に協力したとも伝えられています。

 いくつものオーロラカーテンについて三角測量を重ねた結果,オ−ロラの下端は100〜105kmとほぼ一定であることが確かめられたのです。 

 オーロラの上端についても測定されましたが,こちらはあまりはっきりせず,観測したオーロラによって約500km〜1000kmまでの違いがあることだけは確かめられました。図2にオーロラが発光している様子の概略を示しましたが,オーロラはスペースシャトルが飛行し,地球の周りを周回している人工衛星の高度と同じ電離層で起こる現象なのです。

 オーロラ光の一般的な傾向として,オ−ロラは下端から上方に向かって輝きを増し,約110km〜115kmの高さで最も明るくなり,それより上空では高さと共に明るさが減少していることも明らかになりました。

 オーロラの上端は,オ−ロラが活発になり明るさを増すと高くなるし,高感度の観測機器で観測すれば,上端はさらに高くなります。明るさや形が非常に激しく変動するオ−ロラの場合は,上端は1000kmを越えることもあると言われているように,オーロラの上端は特定できないと考えた方がよさそうです。

 図3は,地表面から上空100kmの高さまでの,空気分子数の高度変化(空気分子1019個入ったカプセルの個数)を示したものです(岩波ジュニア科学講座9,うずまく大気と海,岩波書店)。大気密度は,高度と共に急激に低下しており,オ−ロラの下端に相当する上空100kmの高さの空気密度は,地表面付近の2590万分の1程度です。この値は私たちが使っている真空ポンプでは実現不可能な「真空度」で,オーロラは限りなく真空に近い大気中で発光していることがわかります。

 図4に,「岩波ジュニア科学講座9,うずまく大気と海,岩波書店」より拝借した,大気組成の高度変化を示しました。空気の組成は窒素が約80%で,酸素が20%といわれますが,ある高さより上空になると,組成も組成比も高さによって違っているのです。

 地表面に近いところでは空気はよくかき混ぜられているので,空気の組成比はどの高さで調べても同じですが,オーロラが発光する高さでは,空気は非常に希薄で,空気分子同士の衝突も少なくなるため,重い分子は下に,軽い分子は上方へと「重力分離」が起こり,図4に示すような組成と組成比になっているのです。それに加えて,空気分子の一部が太陽紫外線やX線によって電離されるため,イオンや自由電子も存在している領域なのです。