(4)真空放電
空気を封入したガラス管の両端の電極に,高い電圧をかけます。このままでは,ガラス管内では何事もおこらないのですが,真空ポンプでガラス管内の空気を抜いていくと,ガラス管内が光り出すことが確かめられたのです。真空放電と呼ばれる現象です。
図1は,真空にしたガラス管に微量のネオンを封入した放電管の例で,発光の原理を説明したものです。放電管の陽極と陰極を高い電圧を加えると,陰極から陽極に向かって電子が流れるようになります。 図1の回路の途中に電流計を入れて測ると,ガラス管内に電流が流れていることが確かめられます。
真空放電による発光のしくみをもう少し説明しておきます。ガラス管内が真空状態に近いため,空気分子同士の衝突は少なく,陰極近くに飛び出した電子は,陽極に引っぱられて走り出 します。走り出した電子の一部は,途中でネオン原子に衝突し,ネオン原子にエネルギーを与えるのです。エネルギーを得たネオン原子のいくつかは,最外郭電子が励起されて不安定になり,エネルギーを光りとして放出して安定な状態に戻る,これが真空放電です。
分かりやすくするため,最も簡単な水素原子の例で示したのが図2です。水素原子核の周りを回っている電子(左)に,余分なエネルギーをもった放電電子が衝突すると(中央),原子核の周りを回っていた電子はエネルギを得た分だけ軌道を変える(励起状態)。軌道が不安定なため,光を放出してもとの安定な軌道へと戻るのです。
ガラス管の中に封入するガスを,水素,ヘリウム,酸素,ネオン・・・といろいろ変えて実験がくり返され,真空放電の光りの色は,衝突される原子・分子の種類によって決まっていることが明らかにされたのです。
市販されている水素とヘリウムの放電管を使った実験例を図3に示しました。平成18年度放送大学宮城学習センターにおける「地球物理学実験1」を受講した学生が実験・撮影したものです。上が放電管が発光している様子で,下が簡易分光計による 放電管のスペクトル写真です。光の色は,波長によって定まっています。私たち人間の目に見える光,可視光線は,原子核の周りを回っている電子軌道の変化に対応していることもわかっています。オーロラの光が問題にされた頃には,水素原子,酸素分子,窒素分子,水銀原子,等多くの原子・分子のスペクトルは研究されており,沢山の波長の光が,どの原子・分子の,どのような電子軌道変化に対応する光りなのかも明らかになっていたのです。
真空放電は狭いガラス管内の実験であるのに対して,オーロラは容器の見えない,はるかに真空度の高い,地球規模の真空放電実験なのです。オ−ロラが見られる高さでは,衝突頻度は桁違いに小さくなっていますが,空気原子・分子の衝突は起こっているのです。ロケットや人工衛星の観測によって,オ−ロラが光っているときには,磁力線に添った電流が流れていることも明らかにされており,真空放電が起こってもおかしくないことも確かめられているのです。
オ−ロラの光は,基本的には真空放電で見られる発光現象と同じなのですが,室内実験で再現することは不可能な現象です。自然界では,私達人間には,予想もできないようなことが起こっていることの証でもあります。
(参考):前のページで説明しておきましたが,励起状態から,安定な状態へ戻るときに放射する光を,蛍光・燐光と呼んでいます。光を放出するまでの時間が短い現象を蛍光,長い時間の現象を燐光と呼んでいるのです。 この区別に従うと,オ−ロラの光は燐光ということになります。