(5)オーロラ・オーバル

 オーロラカーテンの幅は東西方向・数千kmにも及ぶことは,どのような研究から明らかになったのか?

 この疑問に答えるために,国際地球観測年(IGY:1957〜1958)の期間中に,オーロラが頻繁に見られる全緯度範囲をカバーするように,図1に示した全天カメラ 100台以上が北極と南極の荒野に据え付けられた。全てのカメラが,同時に毎分1枚の割合で,自動シャッターでオーロラ写真を撮影するように設定されました。

 このようにして撮影した,膨大なオーロラ写真のネガフイルムが,モスクワ大学のフェルドスタインとホロシーバを含む,多くの科学者によって解析されたのです。図2に北半球の解析結果を示しましたが,南北両半球で撮影されたほとんど全てのオーロラが,地磁気極を取り巻く狭い帯状地帯に沿って分布していることが明らかにされたのです。その後の研究で,オーロラの発生頻度は,地磁気緯度・北緯 70度付近で最大となり,それより高緯度方向にも,低緯度方向にも減少した分布になることが明らかになりました。 オーロラ発生頻度が最大になる領域付近をオーロラ・オーバルと呼んでいます。

 参考までに;北半球での地磁気極はグリーンランドの北西端にあり,地理北極とは約11.5度違っています。

 オーロラ・カーテンは図3に示すように,地磁気極を取り囲んで経度方向に広がりをもった特定の磁力線群に沿って発光しており,カーテンの幅は経度方向の特定磁力線の広がりに対応していると考えられるようになったのです。

 オーロラが光る磁力線は, 磁力線に沿って電流が流れるという,非常に限定された特別な条件を満足することが必要であることの発見でもありました。

 しかも,この条件を満足する磁力線は,決して特定の磁力線に固定されているのではなく,時々刻々と磁力線群の間を移動していることの発見でもありました。

  しかも,オーロラ・オーバルは世界時(イギリス・グリニッジ天文台の経度で定義)とともに,あたかも太陽を意識しているかのごとく変化することも明らかになりました。オーロラ・オーバルの形は夜側にふくらみをもっており,中心の位置も夜側にずれ,真夜中のオーロラは広い範囲で,しかも激しく変動し ることも明らかになってきました。非常に激しい磁気嵐が発生した時には,地磁気緯度の低いところでもオーロラが見られることも明らかになったのです。

 しかし,このオーロラ・オーバルの考え方についても誰もがすぐに納得したわけではありません。地上からの観測ではどうしてもわからないところがあり,アラスカ大学の赤祖父教授達はオーロラカーテンに沿ってジェット機を飛ばして確かめる研究を続け たのです。赤祖父教授たちは,オーロラが見られる緯度付近の地球の自転速度はおおよそ時速700kmなので,ジェット機で地球自転と反対方向に飛ぶと,真夜中なら真夜中のオーロラが時間とともにどのように変化するかがわかるはず だと考えたのです。

 アラスカ大学地球物理研究所のグループが,ジェット機から撮影したオーロラ全天写真の時間変化を図4に示しました。写真下の数字は時刻であり,オーロラはきわめて迅速に空に広がり,変化することがわか ります。地平線から現れた活発なオーロラは,激しく変動しながら,天頂付近に達し,南の空へと拡がっていくことを明らかにしたのです。

 スペースシャトル が飛行する高度はオーロラが発光する高度と同じです。スペースシャトルからは,同じ高さの目線で,地球スケールでオーロラの下端から上端までを観測できるのです。

 スペースシャトルから撮影されたオーロラ写真の例を図5と図6に示しました。図5は,地球表面に張り付くように,一枚のオーロラカーテンが高さ方向に形や色を変えて東西方向に伸びている様子が分かります。図6は,地表面に平行に,オーロラカーテンが地磁気北極を取り囲むように東西方向に伸びている様子を映し出しています。 図5,6とも,一枚のオーロラカーテンといっても,一様なカーテンではなく,高さも明るさも色も変化していることを示しています。

 人工衛星からのオーロラ観測が始まると,さらに大きな地球スケールでオーロラの様子を観察できるようになったのです。図7,8,9に人工衛星によって観測されたオーロラオーバルの写真を示しました。特定の日に撮影された代表的なものを紹介していますが,図7は特定な日に観測されたオーロラから求めた北半球のオーロラ・オーバルの様子で,図8はオーロラ・オーバルは昼側で狭く,夜側で広くなっていることを,図9はオーロラオーバルは南・北両半球で同時に輝いていることを示しています。

 高緯度の地磁気擾乱の変動に対応して,静かな暗いオーロラから,明るさも増し,カーテンの襞の変動も激しくなってくると,それに対応してオーロラオーバルは大きく変動します。オーロラ活動が静かなときには,オーロラオーバルの平均的な半径は2000キロメートル程度であったのが,活動が活発になってくると,半径は大きくなり,2500キロメートル,時には3000キロメートルになることもある といわれています。3000キロメートル位になると北緯60度付近でもオーロラが見られるようになる。しかし,この程度では オーロラは日本から見ることはできません。日本で見られるようになるためには,日本付近でも大きな磁気嵐が発生し,オーロラオーバルの半径がさらに大きくならなければなりません。