(E)梅雨

 

  梅雨は東アジアだけにみられる雨季で,6月上旬から7月上旬にかけて日本の南岸から中国の長江流域にかけて前線(梅雨前線)が停滞して長雨を降らせる現象です。梅雨は南寄りの季節風が直接あたる九州,四国,近畿,東海地方で頭著であり,この期間の降水量は年降水量のほぼ 3分の1(平均値は那覇で520mm,福岡で507mm,東京で260mm,仙台で265mm)に達する。北日本では降水量は少なく,北海道には梅雨はない。

 2001年516日の天気図を示しましたが,顕著な梅雨前線に伴った雲が日本列島の南のほうに見えています。梅雨を特徴づける,オホーツク高気圧や南太平洋の小笠原高気圧の存在もはっきりしており,梅雨前線上に発生した低気圧が原因の雨が降っていることも確かです。梅雨は,春から夏へと季節が変わる間の雨季で,毎年繰り返されることから,1つの季節とみなしたほうがよいとする考えもあります。

『平凡社版;気象の事典』に書いてある梅雨の説明一部表に直して下記に示しました

〈つゆ〉ともいう> 太陰太陽暦では梅雨の時期が5月にあたるので,五月雨ともいった。梅雨は東アジアだけにみられる雨季で,6月上旬より7月上旬にかけて日本の南岸から中国の長江流域にかけて前線(梅雨前線)が停滞して長雨を降らせる現象である。梅雨は南寄りの季節風が直接あたる九州,四国,近畿,東海地方で頭著であり,この期間の降水量は年降水量のほぼ1/3(平均値は那覇で520mm,福岡で507mm,東京で260mm,仙台で265mm)に達する。北日本では降水量は少なく,北海道には梅雨はない。

             梅雨期は下記の四つに分けられる。

5月中〜下旬  

中国の華南や沖縄の入梅

6月上〜下旬  

梅雨前線が本州南岸に停滞する時期で,中国の華中や日本の大部分が梅雨になる

6月末〜7月上旬  

本州上に前線が停滞しむし暑くなり,その移動に伴って集中豪雨が起こりやすくなる時期

7月中〜下旬  

梅雨前線が北日本に移動して関東以西は梅雨明けとなり,北日本は梅雨の最盛期となる時期

 なぜ梅雨があるの?・・・梅雨前線の正体は ?

梅雨は,日本のみならず,中国,韓国など中緯度に位置する東アジア全体に生じる雨季として特異な現象です。梅雨前線は,亜熱帯高気圧である小笠原気団から吹きだす暖かい湿潤な大気と,高緯度にあり寒冷なオホーツク海高気圧から吹きだす大気の 境界で,日本列島の南海上で形成され,中国の一部,台湾,日本の各地に雨期をもたらしながら,ゆっくり北上することも確かめられています。梅雨前線の生成には上空のジェット気流が関係しているとする説が有力です。

上空のジエット気流は,図2に示ように,梅雨前の位置は南に下がっており,チベット高原やヒマラヤ山脈の南を流れています。季節が進むにつれ,このジエット気流は北上しますが,チベット高原にぶつかって二つに分かれてしまう時期があると考えられているのです

二つのジェット気流が合流する手前のオホーツク海では,上空で空気が集まり,下降して高気圧が発達します。これがオホーツク海高気圧だと考える人たちがいます。七月に入ると,ジェツト気流さらに北上し,チベット高原の北を通るようになって分流が消えると,オホーツク海高気圧は消えて日本の梅雨は終わると説明しているのです。ここ数年の天気図を見ていると,梅雨の頃もオホーツク海高気圧は現れない日が多く,ジェット気流が2分する説明だけでは不十分のようです。

梅雨前線の北上と梅雨入り・梅雨明け

梅雨は南から始まり,沖縄県では五月中旬,関東では六月中句に梅雨となります。北海道までは梅雨前線が北上しないため,北海道は梅雨がありません。数年前までは,梅雨入りや梅雨明けの時期は比較的教科書どおりであったのですが,最近はどうも一筋縄でいかなくなったようです。かつては気象庁が『今日,関東地方の梅雨入り』を発表したなどと言っていたのですが,最近は『梅雨入り』も仮の発表と称し,梅雨明け後に正式な『梅雨入り・梅雨明けの時期を』を発表するようになりました。

梅雨期の天気の特徴

梅雨は年によって様相が違います。晴れる日があるものの ,降るときにはまとまって降る陽性梅雨や,しとしととした雨が降りつづく陰性梅雨,雨がほとんど降らない空梅雨だったりします。一般的には,梅雨の前半は,オホーツク海高気圧の影響が強いため,肌寒い日が多く雨量も多くありません 。仙台などでは『やませ』と呼ばれる,オホーツク海高気圧からの冷湿な北東気流が入り,冷え込む日が多く,冷害に見舞われることもあるのです。後半は小笠原高気圧のまわりに高温・多湿な空気が入ってくることが多く,集中豪雨が起きやすくなります。

梅雨前線が北上したり,消滅したりすると梅雨明けです。梅雨明けは,沖縄では六月下旬,関東では七月中旬 といわれていたのですが,最近はこれもあまりはっきりしなくなっているようです。 梅雨が明けるときは二つの型があり,一つはよく起こる型で,亜熱帯高気圧が強まり梅雨前線を北に押し上げ,やがて前線は消えていく型で,ある日を境に画然と梅雨が明ける。 もう一つはあまり多くはないが,梅雨前線が南下して梅雨が明ける型で,このときはオホーツク海高気圧が亜熱帯高気圧に変質するのに時問がかかるため,1週問くらい曇天が続きます

梅雨末期の集中豪雨

1982年7月 23日,梅雨末期に長崎市を襲った集中豪雨の例を示しました。長崎市の長与町では1時間に187ミリと言う日本の気象観測史上第1位の猛烈な降水に見舞われたのです。集中豪雨の原因は,図3に示した南海上の湿気をたっぷり含んだ空気が舌状に(湿舌という)梅雨前線ぶつかってきて上昇し,長崎上空で高度1万4千キロメートルにも達する積乱雲をつくったことだったといわれています(図4)。長崎市という地形的な問題もあり,死者・行方不明者439名という大被害をもたらしたのです。

  

図3 湿舌が梅雨前線にぶつかってきた 図4 長崎上空に背の高い積乱雲をつくった