第1部;地球温暖化問題とは?

 

 (T)確実に進行している地球温暖化

 最近の記事(テクノバーン ;2007年5月14日)に,NASAの気象学者が調べた1880 年以降の全地球レベルの地表温度変化を示したグラフと,2006年までの温暖化の地域差を示した世界地図が紹介してありました(図1,2)。1951年から1980年の全地球レベルの地表温度の平均値に対して,毎年の地表温度がどのように変化していったかを計算したものです。

 図1から,1975年以降,地球温暖化が急速に進んでいることがわかります。図2をみると,地球全体が一様に温暖化しているのではなく,北極圏の温暖化が著しいこともはっきりしています。

 *最近の研究で,これまでの予測とは違った結果も報告されています

  1. 米国立大気研究センターとコロラド大のグループが,「地球温暖化による北極海の氷の減少は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書で採用された計算モデルによる予測値より急激に進んでいることを確かめ,海氷の減少は予測より30年早く進んでいる」,と報告しています。
  2.  日本を含む7カ国の研究チームが航空機による北半球の上空数kmまでの二酸化炭素(CO2)濃度の観測結果を分析した結果,「北半球の森林での二酸化炭素(CO2)吸収量は定説のほぼ半分だったことが分かり,残りの半分は地球上の別の地域が吸収しているとみられる」と報告しています。
  3. 日本を含む8カ国の国際研究チームが,1981年から2004年までの南極・昭和基地など南大洋に囲まれた世界40地点で測定された大気中のCO2濃度を解析した結果,「南大洋のCO2吸収力は年々弱まっており,現在ではほとんど吸収していない。今後はむしろ放出源になる可能性もあるかもしれない」と報告しています。

 地球温暖化の予測,なかなか一筋縄ではいきそうもありません。自然は,人間が考えだした理論や法則だけで理解できるほど単純ではないということでしょう。

 (U)京都議定書後の温暖化対策の枠組み づくりの議論が始まった

 2007年2月から5月にかけて「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書」が公表されました。

 報告書の中で,最近世界中で見られる,洪水,暴風雨,雪氷融解,旱魃などの現象は,人間活動による温室効果ガス増加に起因する地球温暖化が原因である可能性が高いことを明言し ,地球環境を守るためには,世界各国が協力し,人間活動による温暖化を緩和させるための対策を講じることが緊急課題であることを指摘しています。

 地球温暖化の影響と考えられる事例が世界各地から報告されることも多くなり,温暖化問題は待ったなしの段階に入っていることが認識され,6月にドイツ北部ハイリゲンダムで開催されたG8(主要国)サミットでも中心議題として取り上げられた。

  2012年に期限が切れる京都議定書後の世界的な温暖化対策の枠組みについて,ヨーロッパと日本は「2050年までに半減する」ことで一致したが,目標設定を先延ばししようとする米国との溝は解消されず,

   @50年をめどとした地球規模の長期削減目標を策定することと,

    A米国や中国,インドなどの主要排出国が参加し,13年以降の「ポスト京都議定書」の枠組みを2009年までにまとめる方針で一致し,共同宣言として報告された。

 出席した阿部総理大臣は,日本で開催する来年のG8サミット(洞爺湖サミット)で「ポスト京都議定書」の枠組みをつくる意気込みだと張り切っていたのが印象的でした。

  6月20日の新聞に,洞爺湖サミットで地球環境問題の議論を主導するには、来年から5年間を対象とする京都議定書の削減目標(日本は1990年比で6%減)達成が不可欠との考えを示し、国民に「1日1人1キログラムのCO2ダイエットをお願いしたい」と協力を求めた,という記事がありました。

  G8サミットの機会にあわせて,国際環境保護団体「世界自然保護基金」(WWF)は,出席する8カ国の温暖化対策を評価した「気候成績表」を発表した ので紹介しておきます。 1位はドイツ,2位フランス,3位イギリスで,日本は4位となっていました。

 成績表は,温室効果ガスの削減実績,国民1人当たりの同ガスの排出量,エネルギー効率,国内対策など12項目について検討し,総合的に評価した結果を点数化したものだそうです。議長国ドイツが最優秀で面目を保ち,京都議定書の基準年(1990年)より排出量を減らしているフランス,英国と続き,日本は4位でした。

 日本は,産業分野でのエネルギー効率などではトップだが,排出量が基準年(1990年)より増えている上,強制的な削減措置と長期的な削減目標がないことが響いて低い評価になったと述べています。最下位は排出量を大幅に増やし,政府レベルでの国内対策もあまりない米国でした。

 「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書」  

 第1作業部会報告書(自然科学的根拠),第2作業部会(影響・適応・脆弱性),第3作業部会(気候変動の緩和策)から構成されており,報告書の概要は,環境省のホームページで見ることができます。アドレスを下記に示しました。関心のある方は読んでみて下さい。

   IPCC第4次評価報告書について

   http://www.env.go.jp/earth/ipcc/4th_rep.html

 

 (V)日本の温室効果ガス放出量はどうなっているのか

 2005年度時点での,日本の温室効果ガス総排出量が,環境省から報告されたので紹介します。表1が温室効果ガスの総排出量で ,京都議定書で指定された温室効果ガス毎に,京都議定書の基準年(1990年)からの増減も明示する形でまとめられています。

    表1  日本の温室効果ガス総排出量(2005年度)(環境省)

この表から読み取ってほしい点を書き出しておきます

A)2005 年度の温室効果ガスの総排出量は13 億6,000 万トンで,京都議定書の基準年(原則1990 年)より7.8%,前年度(2004年度)より0.2%上回っている。

B)地球温暖化に最も重要な役割を果たしている二酸化炭素(CO2)の排出量は,京都議定書の基準年(1990 年)より13.6%も増加してい る。

C)環境省の報告書には,「2005 年度の原子力発電所の利用率が2002 年度の原子力発電の停止前に策定した計画の水準にあったと仮定して我が国の温室効果ガスの総排出量を推計すると,2005 年度の温室効果ガスの総排出量は基準年比で5.5%増であり,同様の仮定における2004 年度から基準年比で0.7%分の増となると試算される」,の表現と,「あわせて、我が国における京都議定書に基づく吸収源活動の排出・吸収量を算定した結果、2005 年度は3,500 万トンの吸収となった。これは、基準年総排出量の2.8%に相当する 」とあり,予定通り火力発電から原子力発電への切り替えが順調に進んでおり,緑化運動が順調に進めば,京都議定書の約束果たすことはできたのに・・・・・・,との思いを感じました。

D)日本の努力で「京都議定書」 を締結した時点での,政府・環境省の読みは「火力発電から原子力発電への切り替えと,省エネと・緑化作用の推進」を中心に進めれば,十分に約束を果たすことは可能との判断だったと思います。

E)予定を狂わせた最大の原因は,原子力発電所の事故です。 図3に2003年までの「電源別発電電力量の実績」を示しましたが,皮肉にも,日本が京都議定書を締結した2002年以降,原子力の占める割合が急減し,温室効果ガスを排出する「天然液化ガス・石炭・石油等」が急増してしまったのです。

         

 (W)地球規模で温室効果ガス排出量を削減するために必要なことは?

 1.主要先進国の温室効果ガス排出量削減の実情

 少し古い資料ですが,図4 は主な先進国の2002年時点の温室効果ガス排出量と削減目標の実態を表したものです。削減目標(青の棒グラフ)は京都議定書で義務付けられた 基準年の排出量からの増減(%)で,下向きの国は削減が必要であり,上向きの国はその値まで増加してもよいことを表しています。増減実績(緑の棒グラフ)は,2002年時点 の排出量が京都議定書で約束した排出量より増えているか減っているかを示しており,グラフが上向きは増加していることを,下向きは減少していることを示しています。削減必要量(赤の棒グラフ)は,これからどれだけ削減することが必要かを 表しています。 赤の棒グラフが上向きの,スペイン,カナダ,米国は20%以上,日本は10%以上削減することが必要で,温暖化対策で先行しているヨーロッパ諸国では排出削減が着実に実行され,義務付けられた目標を達成,あるいは達成を射程内に入れているのがわかります。

 2.主要な二酸化炭素放出源は化石燃料消費であることに変わりはない

 温室効果ガスの大部分を占めているのは化石燃料消費による二酸化炭素の放出です。図5は,2000年までの世界の 燃料別(石炭,石油,ガス,その他)二酸化炭素排出量 と大気中の二酸化炭素濃度の経年変化を示したもので,1950年以降,大気中二酸化炭素濃度と,特に石油からの排出量が急増していることが分かります。しかも,この傾向は現在も続いているといわれており,京都議定書が着実に実行されたとしても,京都議定書から離脱した最大排出国の米国,削減義務を負わない中国をはじめとした途上国の排出量は増加の一途をたどって おり,二酸化炭素排出量の急激な増加傾向に歯止めがかかることは期待できません。 これから排出量の増加が予想される,途上国をも巻き込んだ温室効果ガスの削減対策が急がれるのです。

3.京都議定書の基準年と現在では,主要な二酸化炭素排出国は大きく変化した

 中国,インドをはじめとした途上国の急激な経済発展により,世界の総排出量に対する国別の二酸化炭素排出量は,図6,図7に示すように,順位も占める割合も,京都議定書で基準年とした1990年から大きく変化してい るのです。図6が1990年で,図7が2004年です。

  2004年も排出量の首位はアメリカ合衆国ですが, 世界全体に占める割合が36.1%から22.1%に下がっています。これはアメリカ合衆国の排出量が減ったためではなく,世界の温室効果ガス排出量が増えたためなのです。1990年には顔も見せなかった中国が2位に,インドが5位に入ってきました。アメリカも日本も,少しずつであるが二酸化炭素放出量を増やし続けているのに,1990年と2004年で比較すると,世界の総排出量に占める割合はアメリカが36.1%から22.1%に,日本は8.5%から4.8%に減少しています。この 数値から推測すると,世界の総排出量は1990年から2004年までの間に,少なくとも1.5倍以上増加したことになります。 その後も増え続けているので,現在の総排出量は2倍近くに達しているかもしれません。

図6,図7 世界の総排出量に対する国別の二酸化炭素排出量。図6;1990年,図7;2004年(JCCCA;全国地球温暖化防止活動推進センターすぐ使える図表集より)

 4.先進国は,まず「京都議定書」で約束した,温室効果ガス排出量の削減義務を果たすことが先決です

 温室効果ガス排出量を削減するためには, 世界最大の排出国でありながら,京都議定書に調印しなかった米国や,急速に排出量を増大させ続けている中国をはじめとした途上国も,共通の義務を担う形で,「ポスト京都議定書」の枠組み作りが進められることは当然です。

 しかし,日本をはじめとした先進国は2008年から13年までの5年間に,京都議定書で約束した削減目標を達成することです。調印はしたけれど,達成できませんと宣言している国も出ているのは無責任です。日本も,「産業界の努力以外は削減実績0」というのが,世界の評価です。

 2007年6月20日,時事通信は「首相は,CO2など温室効果ガスの世界排出量を2050年までに半減し,温暖化進行を食い止める重要性を改めて強調。洞爺湖サミットで地球環境問題の議論を主導するには,来年から5年間を対象とする京都議定書の削減目標(日本は1990年比で6%減)達成が不可欠との考えを示し,国民に「1日1人1キログラムのCO2ダイエットをお願いしたい」と協力を求めた。」と報じていました。

 環境省も,まったく同じ趣旨の呼びかけをしていますが,こんなことで,「家庭部門の排出量を現在より約40%削減できると思っているのでしょうか?」感覚を疑ってしまいます。

 (X)地球温暖化問題の発端

 1)地球温暖化防止に向けた国際的な取り組みの始まり

 地球観測年(1957年)以来観測を続けていたハワイのマウナロア山頂の大気中の二酸化炭素濃度の増加傾向が,1970年代後半から,年々大きくなっていることが明らかになり(図 8),温室効果ガスの排出による気候変動問題が大きな関心を集め,地球温暖化防止に向けた国際的な動きが始 まったのです。

 図8 マウナロア(ハワイ)における二酸化炭素濃度の経年変化。 (WMO WDCGG(温室効果ガス世界資料センター),JMA(気象庁)による)

 1997年;第三回締約国会議(京都会議)で,大気中の温室効果ガスの削減目標を具体的な数値で提示した「京都議定書」が採択され,基準期間(2008〜2012年)に,1990年の排出水準から,EU全体で(8%), 米国は(7%),日本は(6%)削減することと,オーストラリア(8%増加)や一部東欧諸国等については増加を認めるが,先進国全体では5.2%削減するという案が承認された 。  

 2002年;日本が「京都議定書」を締結

 2005年2月16日;京都議定書が発効した

 2)京都議定書の要点

 (A) 先進国の温室効果ガス排出量について,法的拘束力のある数値目標を設定したものです(途上国に対しての規制はない)

対象ガス 二酸化炭素,メタン,一酸化二窒素,代替フロン(HFC,PFC,SF6)の6種類
吸収源  森林等の吸収源による二酸化炭素吸収量を算入
基準年  1990年(HFC,PFC,SF6については1995年としてもよい)
目標年  2008年〜2012年の5年間
数値目標  各国の目標;日本−6%,米国−7%,EU−8% など,先進国全体で少なくとも5%削減を目指す

 (B) 自国内の排出量を制約するだけでは目的を達成しにくい国もあり,国際的に協調して,目標を達成するための仕組みとして柔軟性措置が導入された(京都メカニズム)

バンキング 

目標以上の削減が実現された場合,それを次の約束期間に繰り越すこと(ボローイング(前借)は認められず)

バブル(共同達成) 

複数国が共同で目標を達成すること(EU等,責任の所在をはっきりさせることを前提に認める)

共同実施 

他国に資金技術援助し,それによる他国の削減分を自国の削減分とみなす(先進国間でのみ認められる)

クリーン開発メカニズム(CDM) 

先進国と途上国の間の共同実施で生じた削減量は,先進国の削減分とみなす(先進国の途上国に対する経済援助や技術援助に基づく)

排出量取引 

目標を超えて削減できた国が超過削減分を他国に販売することができる(途上国の反対により,詳細は引き続き検討)

 (C) 柔軟性措置に関する合意

  削減義務国の削減努力をそがないこと

  公正かつ明確な取り組み成果の評価方法をもつこと

  協力した途上国が不利にならないようなものであること

 (D) 議定書の発効要件

   @55カ国以上の国が締結する   A先進国の1,990年の二酸化炭素排出量で,締結した国の合計が,先進国全体の排出量の55%以上になる

 (Y)温室効果とは

 (A)気温を支配する地表面熱収支

 スペ−スシャトルから眺めた地球は,真っ白な雲や,南極や北極をおおっている巨大な氷がまばゆいばかりに輝いています。図9に日中の地表面の熱収支の概略を示しましたが,地球に入ってきた太陽光(日射)の一部が反射されているためです。どれだけ反射されるかを表しているのが,反射率(アルベード)と呼ばれる量で,地球の値は0.3(30%)と見積もられて おり,地表面に到達する日射量は約70%ということです。地球に入射した太陽光(日射)は地球表面を温めるので,地球表面は太陽から受け取った量に見合ったエネルギーを,地球放射,顕熱,潜熱,地中への伝導熱として放出し,一定の温度を維持しているのです。

 夜間は日射はないので,気温を支配する要因は地球放射によってどれだけ冷えるかです。図10に夜間の地表面熱収支を示しましたが,地球放射は空気中の温室効果ガスや雲,塵などによって吸収されます。吸収した物質はそのエネルギーを大気放射として放出し,エネルギーのバランスをとっているのです。その他に,日中と同じように,顕熱,僭越,蒸発の潜熱が気温を支配しているのです。図9,10で「移流」と書いたのは,他から暖かい空気や冷たい空気が入ってくることを意味しています。

 

 (B)温室効果の説明

  太陽光(日射)は主として可視光線ですが,地球放射は赤外線です。太陽光(日射)は空気中で吸収されることはありませんが,地球放射は赤外線なので,空気中の水蒸気や二酸化炭素,メタン,オゾンなどによって吸収されます。 水蒸気や二酸化炭素のような赤外線を吸収する気体のことを,温室効果ガスと呼ぶのです。空気中でどの程度吸収されるかの概略を示したのが図11で,黄色で塗りつぶされているのが温暖化が話題になる以前の吸収で, このまま温室効果ガス放出を続けると吸収量が増えることを,赤で塗った部分で模式的に示しました。

 地球放射(赤外線)を吸収した空気は暖まるので,それに見合ったエネルギーを放出(大気放射)して一定の温度を維持する のです。空気中の温室効果ガスが増加すると,より多くの赤外線を吸収する(図11で赤く塗りつぶした部分)ようになるので,空気の温まる割合が増えて大気放射が増すため,結果として地球の気温上昇をもたらすのです。 これが温室効果ガスが増えることによって発生する地球温暖化です。


 (C)温室効果によって気温が上昇することの説明(放射平衡と放射平衡温度)
 地球に入射する太陽光は,地球断面積(πRe2)を通過する量となります(図12)。実際に地球表面が受け取る太陽光は,アルベ−ド(反射率)に相当する分だけ少なくなります。太陽光で暖まった地表面は,それに見合ったエネルギーを放出(地球放射)して,ほぼ一定の温度を保っているのです。このような関係にあることを,『放射平衡』と呼びます。

  

     図12 地球表面における放射平衡の説明図

<参考;1)地球放射平衡温度の計算>

 太陽光に垂直な単位面積に入射する太陽放射(太陽定数)をS0,地球の反射率をA,地球半径をRe,単位面積当たりの地球放射をIeで表すと,地球の放射平衡の式は

     S0(1−A)πRe2 = 4πRe2e     (1)

と表されます。

 地球放射は「黒体放射」で近似できるので,『地球表面温度』をT0とすると,ステファン・ボルツマンの法則により

    e = σT04                 (2)

     σ = 5.67051×10-8W/m24 (ステファン・ボルツマンの定数)

で与えられます。

 (2)を(1) に代入すると

0(1−A)πRe2 = 4πRe2σT04      (3)

0(1−A)= 4σT04            (4)

04 =S0(1−A)/4σ            (5)

 (5)に

       0 = 1.37kw/m2           

       A = 0.3                

を代入して計算すると,

    0 = 255 K = −18℃        (6)

が得られます。

 このように,空気の存在を無視して<放射平衡>が成立しているという条件のもとに計算した地表面温度を,地球の『有効放射温度』と呼んでいるのです。 空気の存在しない地球の表面温度は−18℃という氷点下の世界だということです。

<参考;2)温室効果ガスを考慮した平衡温度の計算>

 地表面から放射された赤外線が空気中の温室効果ガスで吸収される効果を考慮した計算。

 計算を簡単にするため,空気は単純な1つの層からなっていると仮定します。

 

          図 10 空気中の温室効果ガスを考慮した放射平衡を示した概念図

  地球放射を吸収する空気の層が存在するときの放射平衡は,地球表面と空気の層の両方で成立しているので,下記の式のように表現できます。空気が存在する効果を「射出率;ε」というパラメータで表します。

(a) 地球表面の放射平衡

    S0 (1-A) /4 + εσT4 = σTs4   (7)

(b) 空気の放射平衡

    σTs4 = 2εσT4 + (1-ε) σTs4   (8)

(7)と(8)式からTsとTは計算でき,次式のように求まり,空気の射出率εに依存していることがわかります。

  Ts4 = S0 (1-A) / 2σ(2-ε)    (9)

  T4 = S0 (1-A) / 4σ(2-ε)     (10)

(9),(10)式に(5)式を代入して,T0を用いて表現すると,

 Ts4 =2T04/(2-ε)       (11)

  T4 =T04/(2-ε)         (12)

となり

  Ts=T0(2/(2-ε))1/4       (13)

  T=T0(1/(2-ε) )1/4      (14)

と,地表面温度,空気の平均温度ともに,空気の射出率εに依存していることがわかります。

地球放射が空気中で完全に吸収される場合は; ε=1ですから

  Ts=T0(2)1/4=255×(2)1/4=303K=30℃

と,地表面温度は30℃にもなってしまいます。

 地球の平均気温はというと,昔から,約15℃といわれているのですが,書いてある資料はなかなか見つかりません。インターネットで探しているうち,1951年〜1980年の地球の平均気温として14℃と紹介している記事を見つけたので,紹介しておきます。

参考までに,いくつかのεの値 に対する,Tsの値を表にまとめて示しておきます。

ε 

0.9

0.8

0.7

0.6

Ts 

30

23

17

11

6