(C)冬―日本列島大寒波
冬のシベリア地方は太陽光が極端に弱 く空気も乾燥しており、激しい放射冷却によりユーラシア大陸の地表面温度は非常に低く,地表付近の空気も冷やされるため,寒冷なシベリア気団が形成される。 寒冷な気団の空気は周辺の空気より重いため,シベリア高気圧が形成されるのです。相対的に暖かい千島近海からアリューシャン列島南部にかけて気圧が低くなり,日本付近は西高東低 の冬型と呼ばれる気圧配置となります。西高東低型の気圧配置になると,日本付近の等圧線はほぼ南北に走り,日本海側で雪,太平洋側で晴れとなります。
1)典型的な冬型の天気図
冬,オホーツク海で低気圧が猛烈に発達して西高東低の気圧配置が強まると,北よりの季節風が吹き,大陸の寒気が日本海に流れ出してきます。日本海に流れ込んだ寒気は,海面から熱と水蒸気の補給を受けて不安定になり,積乱雲が発生し,成長しながら日本列島に運ばれてきます。
典型的な冬型の気圧配置で,日本海側で降雪の日が続き,太平洋側では晴天の日が続いた2005年2月3日9時の天気図を図1に,その時間に撮影された「ひまわりの雲写真」を図2に示しました。日本海上から太平洋 上まで広範囲に筋状雲が広がっているのがわかります。
2)山雪型と里雪型
日本海側で降る雪には,山間部中心に降る山雪型(図3)と平地でも降る里雪型(図4)の二つのタイプがあることが知られています。 日本海側で豪雪被害に見舞われるのは,主に里雪型の降雪です。山雪型と里雪型の違いは日本海上での積乱雲の発達の差だと考えられています。
山雪型の場合は,図3に示すように,日本海上で発生した積乱雲が成長しながら季節風で運ばれてくることが多く,日本海側に到達する積乱雲の高さは3〜4km程度に過ぎ ないのです。この程度の積乱雲は,脊梁山脈に衝突して強制的に上昇させられないと雪を降らせることはないため,山間部だけにしか雪は降らないのです。
一方,里雪型の場合は,西高東低の気圧配置に加えて日本海上空に寒気が流れ込んでいるため,大気の状態が非常に不安定になっており,日本海上で発生する積乱雲は 急速に発達し,季節風で運ばれて日本海側に達する頃には高度6km以上に達するといわれています。このように背の高い積乱雲内では雲粒は降雪するまで十分に成長するため,脊梁山脈による強制 的な上昇力が働かなくとも雪は降るのです。平野部から山間部までの広い範囲で雪が降り,積乱雲の背が高い分だけ,沢山の水分を含んでいるため,降雪量も多くなるのです。
3) 2001年,年明けの寒波
2001年の冬は,年明け早々から日本列島各地で強風に見舞われました。図5に天気図を示したように1月3日には“西高東低の典型的な冬型の気圧配置”となり, 1月4日から日本海側の新潟県から東北地方の南部にかけて,交通障害が出るほどの大雪に見舞われたのです(図6)。「ひまわりからの雲写真」で見ると,図7に示すように,日本海上には寒気の吹き出しによる典型的な筋状雲が現れていたが,さらに詳しく見ると,日本海上から新潟にかけてカーブしたライン状に伸びた太い筋状雲が写っているのがわかります。 これは周りより背の高い積乱雲が収束していることを示しており,当時のウエザーニュース記事によると,『日本海寒帯気団収束帯(JPCZ)』が形成され,日本海から新潟・東北南部にかけて停滞していたためと説明していました。
4)『日本海寒帯気団収束帯(JPCZ)』の発生メカニズム
当時のウエザーニュース記事によると,図7の写真で見られる『日本海寒帯気団収束帯(JPCZ)』の発生メカニズムは次のように考えられています。
ユーラシア大陸から流れ出してきた寒気は,朝鮮半島の北側にある2500mを越すチャンパイ山脈に邪魔されて,二つに分かれて山脈を迂回するようにして日本海に吹き出してくるときがあり,図8に模式的に示すように,迂回してきた2つの流れは日本海で衝突し『日本海寒帯気団収束帯(JPCZ)』を発生させるというものです。収束帯では激しい上昇気流が発生するため,積乱雲は急速に発達し,図7に見られるような“ライン状の発達した積乱雲の帯”となって日本列島に流れ込んでくるのです。しかも『日本海寒帯気団収束帯(JPCZ)』は日本海上のほぼ同じ位置にとどまっているので,このような雪雲に見舞われた地方は 豪雪に見舞われるのです。5) 太平洋側の大雪
冬,太平洋側でも大雪に見舞われることがあります。大雪の原因は日本海側と違い,「南岸低気圧」と呼ばれている低気圧が本州の南岸沿いを発達しながら東北東に進んでくるときです。図 9は,本州南岸を「南岸低気圧」が発達しながら東進した2001年1月8日午前9時の天気図です。前日,1月7日は関東地方で雪が降り,1月8日は東北南部で大雪となり,福島で観測史上3番目の最深56cm,仙台で29cmの積雪となりました。