(H)気候とは?

 

 『気候』は人間生活に結びついて生まれてきた抽象的な概念で, <今年の冬は寒い><今年は雨が多い><今年は春が遅い>,・・・などというときの判断基準になっているもので,<温帯地方の気候>,<日本の気候>,<仙台の気候>などと表現されるように,地域や地点に固有のものです。気象の事典(平凡社)では『気候とは,地球上のある地点,または地域で,1年を周期として,毎年決まった順序でくり返される,最も出現率の大きい大気の総合状態』と説明しています。

 気候に似た意味の言葉として,気象,天気,天候が使われていますが,気象の事典(平凡社)では,それぞれの言葉の違いを下の表に示したように説明しています。参考にしてください。

気象

大気の状態や大気中でおこる全ての現象

天気

ある時刻または時間帯の気象の状態。時間帯としては,数分からせいぜい2〜3日程度

天候

数日間以上にわたって,同じような天気状態の移り変わりが続くとき

気候

通常は数十年間という大気の総合した状態の移り変わり

 気候は『地域や地点に特有の大気の総合状態の移り変わり』と説明していますが,実際には,気象測器で観測できる気温,降水量,日照,風など,人間生活に直接関係している気象要素の長年の平均値の組み合わせを工夫することによって気候を表現しているのです。日本では,長年の平均値とし,30年間平均値を『気候の平年値』とも呼び,現在使用しているのは「1971年から2000年までの平均値 」で,2009年までの10年間同じ値が使用されます。次に『気候の平年値』が更新されるのは2010年で,1981年から2010年までの平均値になるのです。

<仙台の今年の冬は寒い>というのは,厳密には<仙台の今年の冬の平均気温は,1971年から2000年までの30年間の冬の平均気温よりも低い>ということであり,<日本の今年の冬は寒かった>というのは,<日本各地で,今年の冬の気温は,1971年から2000年までの30年間の冬の平均気温よりも低かった>ということを意味しているのです。

「異常気象」という表現もよく聞きますが,これも『気候の平年値』が判断基準で<30年に1度の確率でしか起こらない気象現象>という意味です。

 気候因子(気候を支配する要素)

 気候因子(気候を支配する要素)というのは,気候の地域差を生じる原因のことで,具体的には,気温・降水量・日照・風といった気象要素の長年の平均値に影響を及ぼす要因のことです。したがって,気候因子は 対象にする地域の広さによって違っており,地球規模やユーラシア大陸の気候といった<大気候>を考える場合には,緯度や海陸分布,海流,・・・・が気候因子にな るが,東北地方や宮城県内の気候,仙台市街地と近郊地域との気候差を問題にする<中気候><小気候>の場合には, より局地的な規模の小さい地形や高度,海岸からの距離,都市化,土地の起伏や植生の分布などが気候因子となるのです。

 このように,気候因子は扱う対象によって違ってくるので,<大気候>,<中気候>,<小気候>などと区別して議論されるのです。

 大気候(地球規模の気候)の気候因子

 地球上の気温を支配する主要なエネルギー源は日射です。日射量は緯度に依存するので,『緯度』は大気候を支配する最も重要な気候因子で,熱帯気候,温帯気候,寒帯気候のように区分されるのです。同じ緯度地帯でも,その地域が海洋に近いか大陸内部であるかによって気温や降水量が大きく違っており,海洋か大陸かも重要な気候因子であることがわかります。 ヒマラヤ山脈やロッキー山脈のような大山脈や,海流も大気候を支配する気候因子になっています。

 気候区分

 気候の共通性や類似点に着目して,気候をいくつかに類型化することを気候分類,または気候区分といいます。方法はいろいろ考えられますが,現在まで残っているのは次の二つです。一つは,ケッペンの気候区分に代表される環境的・経験的なもので,植生分布に基礎を置き,気温と降水量を加味した分類法です。もう一つは気候学的区分で,大気大循環をはじめ,気団や前線など気候の原因(気候因子)を意識した近代的分類法です。

 ケッペンの気候区分

 図1に示したのは, FAO(国連食糧農業機関)のホームページから抜粋したケッペンの気候区分図に,色別に示されている気候区の説明を加えたものです。

 

            

 図1 ケッペンの気候区分(FAO(国連食糧農業機関)のホームページから抜粋)

 ケッペンの気候区分では,まず樹木気候と無樹木気候に大別しています。樹木気候は樹木の生育に必要な温度と降水量が充足されている気候で,無樹木気候は樹木生育に必要な温度と降水量のどちらか,あるいは両方が充足されていない気候ということです。無樹木気候区に該当するのは,一つは降水量が少ないため樹木の生育不能なB(Dry;乾燥帯)地域であり,もう一つは温度が低いために樹木の生育不能なE(Polar;寒帯)地域です。

 樹木気候区は,温度の違いによってA(Tropical;熱帯),C(Temperate;温帯),D(Cold;寒帯)気候に分けられ,さらに,降水量の季節変化によって図の中で色分けしたように区分されているのです。さらに詳しいことを知りたい方は下記に示したホームページを参考にしてください。

http://www7.ocn.ne.jp/~w246/kyouzai001.htm

http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Keyaki/6587/geo20000911.html

 

 大気大循環にもとづく気候区分(気候学的区分)

 図2は,夏と冬の大気大循環を模式的に示したものです。ハドレー循環,フエレル循環,極循環 の3つに区分できると考えられています。両極で冷気が下降している極循環(黄)と熱帯地方で上昇しているハドレー循環(赤)は,理論的にもはっきりしていますが,フエレル循環(青)は,理論的には説明が困難な「間接循環」です。図から明らかなように,3つの循環の位置は夏と冬で違っており,季節変化しているのです。

 この大循環を基本にした考えで,

一年中ハドレー循環に支配される地域を熱帯

夏はハドレー循環に冬はフエレル循環に支配される地域を亜熱帯及び暖温帯

一年中フエレル循環に支配される地域を冷温帯及び亜寒帯

極気団が卓越する地域を寒帯

と区分した。

 具体的な気候区分例は紹介しませんが,それぞれの気候区内で,降水量を考慮した細分も行われています。

 日本の気候区分

 日本の気候は,北海道と九州では違っているし,太平洋側と日本海側でも違っています。福井栄一郎の気候区分に始まり,何人もの研究者が独自の気候区分を行っています。古いですが,よく紹介されている二つの例を紹介しておきます。

 暖かさの指数(=Σ(月平均気温−5℃),ただし5℃以上の月だけ)で区分した吉良竜夫の気候区分(図3)と,冬の降雪を基準した鈴木秀男の気候区分(図4)を示しておきます。

 吉良竜夫は,自然植生と対応がよい“暖かさの指数”を用いて,日本を亜寒帯・冷温帯・暖温帯・亜熱帯に区分しています。冬の日本海側の多雪域をスノーベルト,少雪域をサンベルトと区分し,サンベルトの中でも特異な瀬戸内気候区を設けたり,山間部を中心とした内陸盆地の気候を区別するため,内陸気候区を設けているのも特徴です。

 鈴木秀男は,一年中寒帯に属する北海道北部 を除くと,日本の大部分は夏と冬で熱帯気団と寒帯気団が入れ替わる中緯度気候帯であることに注目し,日本の気候の特徴は冬の降雪量の違いにあるのだと考えた気候区分を提唱しています。

 気候の特徴を表すクライモグラフ

 ケッペンの気候区分でも,日本の気候区分でも使用している気象要素は気温と降水量で,この2つが気候の特徴を決めているといっても過言ではない。

 気温と降水量の季節変化を利用して,地域の気候の季節推移をわかりやすく表現するために工夫されたのがクライモグラフです。クライモグラフは横軸に相対湿度,縦軸に湿球温度をとって,1月から12月までの平均値の散布図をつくり,月の順に線で結んで示したものですが,現在は横軸に降水量,縦軸に気温をとるのが普通になっています(本によっては,こちらをハイザグラフと区別して呼んでいるのもあります)。以下に代表的な気候の特徴をクライモグラフで示しておきます。

 最初に,大陸内部に見られる大陸気候(酒泉)と島国のように海洋の影響を強く受けている海洋気候(London)のクライモグラフの違いを図 5に示しました。大陸沿岸地方の気候は,大陸の東岸に位置するか西岸に位置するかによって違っており,東岸気候,西岸気候と区分されています。クライモグラフの違いを 図6に示しました。最後に,東北地方から日本海側の秋田,太平洋側の仙台,内陸部の福島を選んで,クライモグラフの違いを図 7に示しました。

(A)大陸気候(continental climate)と(B)海洋気候(Oceanic climate)

 大陸気候は,地表面温度の時間変化と太陽高度の時間変化との間にはほとんど差はなく,気温の日変化や年変化が非常に大きいのが特徴です。冬季は陸地の放射冷却が急速に進み,非常に寒冷になるため,高気圧が発達し,寒帯大陸気団の発現地となっています。したがって,晴天で弱風の日が多く,降水量は極端に少ないのが特徴です。

 夏季は日中の日差しが強く,大陸内部の冷帯地方でもかなり高温になるため,大陸上の気圧が低下し,雨も降り,農耕も可能になります。しかし,海洋から離れており水蒸気の輸送量 が少ないため降水量は少なく,空気は乾燥しています。

 大陸気候がもっとも顕著に発達しているアジア大陸内部の酒泉(中国)のクライモグラフを図5に示しました。冬季は寒冷で降水量も極端に少なく,夏季は気温はかなり上昇し,少ないながらも降水があることもよくわかります。

 海洋気候は海洋上や海洋中の小島に現れる温和な気候で,気温の日変化や年変化が小さいのが特徴です。代表として,イギリスのロンドンのクライモグラフを図5に示しましたが,冬も多雨となる傾向があるのも特徴のひとつです。また,気温日変化の最高気温・最低気温の出現時刻は陸上より遅れるし,年変化の最暖月や最寒月も,陸上より 1ヵ月から2ヵ月くらい遅れるのが普通です。

 風は一般的に強く,1年を通じて湿度が高く,雲が発生しやすいため,雨量の季節変化は小さい。海洋気候が温和である原因として,シュミット(W-Schmidt)が考えた渦乱流による熱交換現象としての説明が認められています。海水中では乱流によって生じた無数の渦が,表層が受け取る熱エネルギーをより深層にまで運ぶため,表層の昇温は抑制されるし,表層の冷却過程でも,表面からの放射による熱エネルギーの損失が深層からの同様な熱伝達で補われるため,表層の冷却は抑えられると考えられているのです。

(B)西岸気候(West-coastclimate)・東岸気候(east-coast climate)

 ユーラシア大陸と北米大陸の東岸と西岸の代表的な都市のクライモグラフの違いを図6に示しました。同じ緯度の大陸西岸と東岸を比較すると,冬季は西岸が高温・多雨で,東岸は低温・少雨ですが,夏季には西岸より東岸の方が高温で蒸し暑く,多雨な地域が多くなるのです。このよう特徴的な違いを,『西岸気候・東岸気候』と呼んで区別してい ます。

 図6に示したのは,西岸気候の代表としてユーラシア大陸西岸のリスボン(ポルトガル)と,北米大陸西岸のサンフランシスコのクライモグラフ,東岸気候の代表としてユーラシア大陸東岸の大連(中国)と北米大陸東岸のニューヨークのクライモグラフです。

 両大陸の西岸気候のクライモグラフには大きな差は認められませんが,東岸気候のクライモグラフには二つの大陸で大きな違いが見られます。

(C)東北地方の日本海側,太平洋側,内陸部の気候の違い

 以上は地球規模の気候について調べたものですが,もっと小さなスケールでも気候が違っていることを紹介しておきます。

 身近な例として,東北地方の日本海側の秋田,太平洋側の仙台,内陸部の福島のクライモグラフを図7に紹介しました。

 秋田のクライモグラフは冬の降雪量の多さを示しているし,梅雨から秋雨の期間,仙台の降水量が福島より多いことも読み取れます。このようにクライモグラフは,気候の特徴を調べるのに便利なものです。是非,自分でクライモグラフをつくって,関心ある都市の気候の特徴などを確かめてみてください。