(1)太陽から放射されるプラズマ流と地球磁気圏

 

 1)太陽放射

 太陽放射の大部分は可視光線を中心とした光ですが,表1に示すように,量的には百万分の1以下に過ぎませんが,磁気嵐やオーロラの原因となるX線やプラズマ流,太陽宇宙線,太陽電波も放射されているのです。 

   表1 種類ごとに示した太陽放射エネルギー量

種 類  

エネルギー量

光(可視光線・赤外線・紫外線)  

 1.4    kW/m2

X 線  

 10-6   kW/m2

プラズマ流  

 10-6   kW/m2

太陽宇宙線  

 10-8  kW/m2

太陽電波  

 10-13  kW/m2

 特徴的なのは,太陽光は「太陽定数」と呼ばれるようにほとんど変化しないのに対して,磁気嵐やオーロラの原因となる X線やプラズマ流など他の放射は太陽活動によって大きく変化することです。

 2)光の源は中心核の核融合反応だが,X線やプラズマ流の源は光球の外にある

 図1に太陽構造の概略を示しましたが,光(可視光線・赤外線・紫外線)を放射している面を光球と呼んでいるのです。太陽光(可視光線・赤外線・紫外線)の源は,中心核における<水素からヘリウムへの核融合反応>によって発生した熱です。<水素からヘリウムへの核融合反応>は,うまくコントロールされているため,発生する熱はほぼ一定になっているのです。

 中心で発生した熱は,太陽半径の0.8倍程度までは光の形で輸送されているので,この領域を輻射層と呼んでいます。太陽半径の約 0.8倍より外側では,光による輸送の他に対流による輸送が加わり,0.85倍付近からは対流による輸送の方が卓越するようになると考えられているので,この領域を対流層と呼んでいるのです。

  光球の外側が彩層で,彩層の外側を非常に高温のコロナガスが覆っています。高温コロナガスの一部は太陽重力を振り切って太陽から定常的に噴出して おり,あたかも風が吹き出しているように見えることから「太陽風」と呼ばれているのです。高温コロナガスが激しく運動し,時に爆発的にプラズマを放出することもあります。爆発に伴って,X線やプラズマ流,太陽宇宙線,太陽電波が放出され ると,地球規模で磁気嵐が起こり,高緯度地方ではオーロラが天空を舞うのです。オーロラや磁気嵐の源は,太陽内部のエネルギーとは無関係な光球の外側にあるのです。

  参考までに;太陽中心核から放射された『ニュートリノ』は光速とほとんど変わらない速さで進みますが,熱は輻射と対流で運ばれてくるので,『光球』に到達するまでに数百万年もかかります。私たちが見ている太陽の光の源は,数百万年前に太陽中心核で発生した核融合エネルギーだということです。

 2)太陽風

 太陽光から推定される『光球』の温度は約6000K程度です。『光球』の上が『彩層』と呼ばれる領域で,太陽の最も外側を取り巻いている層が ,約100万Kと非常に高温な『コロナ』です。『コロナ』が高温になっている理由については,多くの議論がありますが,ここでは触れないことにします。

 コロナがこのように高温になっていると,コロナガス全部を太陽重力で閉じ込めておくことは不可能で,『コロナ』からの定常的なプラズマ流(プロトン(H+)や電子(e))が存在するはずだと推論したのが,米国の研究者・Parkerで,この定常的なプラズマ流を『太陽風』と呼んだのです(図2)。

 1962年8月,金星に向けて発射されたマリナーU号が,太陽から外向きに流れ出しているコロナガス(主として電子と陽子からなるプラズマ)の存在を確認し,Parker理論が正しかったことを証明し ました。

 マリナーU号の観測によって,太陽風は磁場を伴っていることも明らかにされました。『太陽風』は太陽磁場の磁力線に巻きついた運動をしながら惑星間空間を進んでいることや,太陽風は一定ではなく,27日周期で変動していること,太陽風の変動が地球磁場変動と対応していることも観測から明らかになったのです。

 太陽は自転しているため,『太陽風』によって惑星間空間に引き出された太陽磁場の磁力線は捩られ,Parkerの予測どおり,太陽赤道面の磁力線は図3に示すようなアルキメデス・スパイラルのかたちになっていることも確かめられたのです。 『太陽風』は太陽から放射状に吹き出しているので,太陽風が変化するとスパイラル磁力線のかたちをも変えるので,惑星間空間磁場(Interplanetary Magnetic Field)の強さと向きも変動 するのです。地球は他の惑星と一緒に,このように変動する太陽風と惑星間 空間磁場(IMF)内を公転しているのです。

 3)地球磁気圏

 地球も図4に示すような一つの大きな磁石になっているので,周りに磁力線を張り巡らせた地球が,惑星間空間磁場(IMF)を伴った太陽風の中を公転しているとイメージすればよいのです(参考;地磁気北極は地理北極と一致していないので,図の中に現在の地磁気北極の位置を書いておきました)。

 周りに磁力線を張り巡らした地球が太陽風の中を公転していることを,もう少し説明しておきます。

 『太陽風』は荷電粒子(電子や陽子が主)なので,地球磁力線に妨げられて磁気圏内に入ることはできません。最も外側の地球磁力線と相互作用をしながら太陽と反対方向に吹き抜けていくのです。その結果,太陽風の侵入を防ぐように地球磁気圏が形成され,磁気圏をまとった『吹流しの形をした地球』が太陽系空間を公転していると考えられているのです(図5)。風のなすがままにたなびいている『吹流し』のように,『太陽風』や『惑星間空間磁場』の変動に対応して『吹流しの姿をした地球磁気圏』も姿を変えながらたなびいている イメージです。

  地球に吹き付けてきた太陽風荷電粒子と地球磁力線との関係を,もう少し物理的に説明しておきます。地球磁力線を横切って地球磁場内に入ってくることのできない荷電粒子は,地球磁力線につかまるか,太陽方向に戻っていくかのいずれかの運命なのです。

 地球磁力線につかまった荷電粒子のその後の運動を図6に示しましたが,磁力線の周りを螺旋運動しながら地球の極方向に進み,ある高さで逆戻りして反対方向の極に近づく,往復運動を繰り返すようになります。しかも,往復運動は同じ磁力線にとどまるのではなく,少しづつ隣の磁力線へと乗り移っていくのです。この運動は,図6の一番下の図に描いた「ドリフト運動」と呼ばれているものです。

 

 太陽風は,惑星間空間磁場の磁力線にまきついた形で吹いているので,惑星間磁場の磁力線と地球磁力線の衝突も考慮しな ければなりません。風のなすがままにたなびいている『吹流し』のように,『太陽風』や『惑星間 空間磁場』が変動すると,『吹流しの姿をした地球磁気圏』は影響を受け,地球磁気圏内で様々な変動が発生します。地球磁気圏の変動は,いろいろな形で地球表面へと伝えられてきます。地球表面で観測される最も顕著な例が『オーロラ』であり,『磁気嵐』なのです。『太陽風』や『惑星間空間磁場』を変動させる源は太陽にあるので,『オーロラ』や『磁気嵐』の源は太陽にあると考えてよいのです。