(2)太陽活動・磁気嵐・オーロラ

 

 オーロラや磁気嵐の原因になるのは太陽が放射するプラズマ流で,正体はプロトン(H+)や電子(e)です。プラズマ流には,『コロナ』からほぼ定常的に放射されている『太陽風』と,太陽面で『フレーア』と呼ばれる爆発現象が起ったときに突発的に放射される『プラズマ雲』の2種類があることもわかっています。

 太陽面上の活動領域で爆発現象が観測されると,数日後に世界各地で磁気嵐が起こり,電波障害が発生したり,極に近い高緯度地方では,地球磁場が激しく乱れると,オーロラが夜空を真っ赤に彩ったり,時にはカーテンのようにひらひらと激しく舞うことが知られています。南極観測,ロケットや人工衛星による観測・研究と,オーロラや磁気嵐の謎解きが現在も精力的に続けられている ます。

 (1)太陽活動

 太陽活動の指標として昔から利用されているのは黒点数です。人工衛星による太陽の連続観測が続けられるようになると,軟X線で見た太陽も約11年周期で変動していることが明らかにな りました。図1は,日本が世界に誇る太陽観測衛星「Yohkoh」の軟X線観測結果を解析し,当時の宇宙科学研究所(ISAS)(現;宇宙航空研究開発機構(JAXA))が作成して公表した ,軟X線で見た太陽の11年周期変化です。

 黄色に光って見えているのはX線が非常に強いためで,活発に活動している黒点群付近に対応しています。この観測で,太陽活動が活発な時期には,太陽面からの軟X線放射が強く,しかも活発に活動している黒点群が多く存在していることが実証されたのです。

  オーロラや磁気嵐を発生させるのも,活発に活動している黒点群から放射される爆発物です。このような黒点群は太陽活動極大期に多く存在しますが,数は少ないながらも太陽活動極小期近くになっても存在することがあり,活発な磁気嵐やオーロラが発生する ことがあるのです。

 図2は, 活発に活動している黒点群付近の磁場の極性と強度分布を示したものです。黒色のところが磁場の極性が−で,白色のところが磁場の極性が+です。黒点は+極と−極の磁場が対になっており,活発に活動する黒点群一帯では,+−の磁極が入り乱れて存在していることがわかります。

 図3は,水素原子が放出する紫外線で観測した活発に活動する黒点群の様子です。複雑に絡み合った磁力線に沿って強い紫外線が放射されている様子がよくわかります。 図3に見られるループ状に光っている領域は激しく姿を変えることも観測から明らかになっています。

 図4は,活発に活動する黒点群上部で時折見られるフレーアーと呼ばれる太陽面爆発です。フレーアーは地上観測でもよく知られている現象ですが,図4は人工衛星による紫外線観測結果を画像として表現したものです。白く光っている領域は強い紫外線を放出しており,その領域が外に向かって激しく伸びていく様子も明らかにされています。

 図5は太陽面爆発(フレーアー)の様子を全太陽像として観測したものです。コロナガスが太陽から勢いよく放出される,CME(コロナ質量放出)と呼ばれている現象で,2〜3日後に地球磁気圏に衝突し,激しい磁気嵐やオーロラを発生させることが分かっています。

 (2)磁気嵐

 磁気嵐とは,世界各地の地球磁場の強さや向きが変化する現象です。しかし, 中・低緯度の変化量は地球磁場の百分の1以下が一般的で,私たちが「方向を知るのに利用している磁針」では測定できないほど小さい変化です。磁気嵐などを観測するためには高感度磁力計が使用されているのです。

 磁気嵐の記録を調べると,中・低緯度と高緯度で大きく異なった特徴があることがわかります 。2003年11月20日の磁気嵐の記録を例に,高緯度の磁気嵐と中緯度の磁気嵐との違いを比較したもので説明します。図6に中緯度地方の代表として日本の柿岡(36 14N, 140 11E)の磁気嵐の記録を,図7に高緯度地方代表としてノルウエイのトロムゼー(69 39N, 18 56E)の磁気嵐の記録を示しました。

 Hは水平成分,Zは垂(沿)直成分,Dは偏角(地理北極と地磁気北極とのなす角),柿岡の記録だけにあるFは全磁力です。 柿岡の磁気嵐の記録は,古い教科書に書いてあるように,地球磁場の強さがパルス状に増加する「急始」で始まり,特に水平成分に顕著に見られる磁場が強まった状態の「初相」,磁場の強さが急激に減少を続ける「主相」,減少した磁場の強さが元の状態へと回復する「回復相」の4つの相で構成されていることが分かります。

 これに対して,図7に示した高緯度のノルウエイのトロムゼー(69 39N, 18 56E)の磁気嵐の記録は,柿岡とほぼ同時刻に急始(SC)で始まり,H成分は,磁場が強まった状態の「初相」,磁場の強さが急激に減少を続ける「主相」,減少した磁場の強さが元の状態へと回復する「回復相」と,柿岡の記録と似た変化を示します。

 中・低緯度の磁気嵐との大きな違いは,特にD成分に顕著ですが,どの成分も短い周期の変動幅が非常に大きいことと,磁場変動量が柿岡に比べて一桁以上大きい ことです。柿岡での磁場変動量は,H成分もD成分も100分の1以下に過ぎませんが,トロムゼーではH成分は約20%,Z成分は3%にも達しているのです。 高緯度の磁気嵐の原因は,中・低緯度の磁気嵐の原因の他に,周期の短い磁場変動の原因となる高緯度特有のメカニズムが寄与しているのです。高緯度特有の「早い変動の磁気嵐」はサブストーム(Sub-storm)と呼ばれています。

 (3)オーロラ

 オーロラは磁気嵐と関連した,高緯度で発生する現象です。高緯度特有の磁気嵐はサブストームなので,多くの研究者が,オーロラとサブストームの関連を調べ,オーロラ活動とサブストームは非常によく対応していること を明らかにしています。サブストームの原因とオーロラの原因を切り離して考えることはできないということです。理屈の話は別にすることにし,これ以上の説明は省略します。