(3)太陽面の爆発現象・惑星間空間現象・磁気嵐
2003年10月下旬から11月上旬にかけて,太陽活動は非常に活発で,世界各地で激しい磁気嵐が起こり,オーロラ活動も非常に活発でした。北海道各地でも,10月29日から31日にかけてオーロラが観測され,大きな話題になりました。太陽活動がこれだけ激しくなると,人工衛星やスペースシャトルに被害を与えることや,時には地上の送電線に被害を及ぼすことさえあるとの情報も流れていました。 様々な話題を提供した,2003年10月下旬から11月上旬にかけての太陽活動の様子と太陽面爆発の例を,人工衛星SOHO (Solar and Heliospheric Observatory) が観測した映像で紹介します。高緯度の磁気嵐と日本で記録された磁気嵐の違いについても記録例で紹介します。 北海道で見られたオーロラ写真が,「銀河の森天文台・ギャラリー」にまとめてあります。アドレスを書いておきますので,覗いてみてください。
http://www.town.rikubetsu.hokkaido.jp/tenmon/auroragallery/index.htm
(1)2003年10月下旬の太陽面爆発
図1は2003年10月28日の太陽表面の磁場の極性分布です。黒は+極性の磁場を,白は−極性の磁場を表しています。図1の白腺で囲んだ領域の黒点群が活発に活動し,爆発を繰り返しながら,10月末に地球上空まで移動してきました。
10月28日の太陽活動は特に激しく,いくつもの黒点群で最大級の太陽面爆発を繰り返していました。図2は10月28日22:00の太陽面大爆発の紫外線写真ですが,爆発時の閃光によって太陽像がハレーションを起こしています。 ハレーションを起こしたのは,太陽像だけではなかった。図3に,ハレーションを起こした10月28日12:42のコロナグラフを示しましたが, 白く光ったものが太陽から外に向かって広がっているのが見えています。 動画で見ると,白く光ったものが爆発的に外に向かって放出され,その瞬間,画像がハレーションを起こしたのです。静止写真で白く光っているのは,コロナガスが固まりになって爆発的に放出されているワンショットだったのです。太陽爆発に伴って大量のプラズマ雲が放出される現象を,CME(Coronal Mass Ejection)と呼んでおり,激しい磁気嵐やオーロラを発生させる原因になることが分かっています。
(2)太陽面爆発のメカニズム
観測される太陽面爆発現象を説明するメカニズムの概略を,図4を用いて説明しておきます。活動領域(黒点群)の活動が活発になると,磁力線を伴ったコロナガスが激しく上昇するようになり,黒点対上層で磁気中性点(互いに反対向きの磁力線が接触し,磁場が0になる点)が発生し,磁力線の再結合(違った磁力線同士のつなぎかえ)が起こる(図4の磁気中性点)。このとき,大きなエネルギーが爆発的に解放され,磁気中性点の太陽側では,再結合した磁力線がプラズマを閉じ込めたまま太陽表面に向かって急降下し,黒点領域のプラズマに激しく衝突するため,「硬 X線」や「軟X線」が放出されると考えられています。磁気中性点の反対側では,磁力線を閉じ込めた大きなプラズマ雲が,秒速1000km近くのスピードで,宇宙空間に放出され,これが太陽面爆発として観測されると考えられているのです。
磁気中性点で放出されたエネルギーによって,他にもさまざまな現象が発生します。黒点に流れ込んできたプラズマ流の激しい衝突によって,強いガンマ(γ)線, X線,紫外線などが放出され,電波バーストと呼ばれている,広い波長域に渡っての電磁波放射も観測されています。
太陽系空間は秒速300〜400キロメートルの『太陽風』が吹いている領域なので,太陽面爆発で放出される秒速1000km近いプラズマ雲は,500キロメートル以上の速度差で『太陽風』に激しく衝突するのです。この衝突は『超音速衝突』なので,宇宙空間で突風(プラズマ雲)の前面に衝撃波が発生 し,物理量が不連続的に変化する『衝撃波』を伴った突風が地球磁気圏に衝突し,吹き抜けていくのです。磁気圏を伴った地球が,太陽から吹いてきた突風の中に取り込まれた様子を模式的に示したのが図5です。地球磁気圏は激しく変動し,地球上では地磁気の大きな乱れ(激しい磁気嵐)と,激しいオーロラ活動が観測されるのです。
(3)惑星間空間で観測した太陽面爆発現象
宇宙空間で観測している人工衛星に真っ先に到達する爆発物は,高エネルギープロトンです。人工衛星(GOES11)が捉えた10月28日の太陽面爆発で放出された高エネルギープロトンを図6に示しました。
Ep>10MeV,Ep>50MeV,Ep>100Mevのエネルギー領域全てが,1000倍以上に急増しており,太陽面爆発のものすごさをうかがい知ることができます。
遅れて到達するのは,プラズマ雲の本体で,人工衛星は太陽風の変化として観測しています。2003年10月24日から11月5日までの,太陽風の風速と密度の変化を図7に示しました 。10月28日以降,風速は急増し,30日にはスケールアウトしてしまい,その状態が11月1日頃まで続いていることが分かります。10月30日から11月1日までの期間,人工衛星に搭載した 太陽風観測機器の測定範囲を超えるほどの「高速太陽風」が吹き荒れたのです。
スケールアウトした期間の,人工衛星が観測したヘリウムイオンの進行速度と密度を図8に示しました。10月29日6時頃と,10月30日18時頃に秒速2000m近くの突風となって人工衛星に飛び込んでいることが読み取れます。
図7の10月26日の太陽風の風速が急激に変化している様子を,時間分解能をあげて示したのが図9です。太陽風の風速と密度は非常に短時間で階段状に増加しており,高速太陽風の前面に衝撃波が形成されていることが明らかになったのです。
太陽面爆発で放出される高速プラズマ雲は前面に衝撃波を伴って地球磁気圏に衝突し,吹き抜けていくことが実証されたのです。
(4)太陽面爆発が原因で発生した磁気嵐
10月28日の太陽面爆発が原因で発生したと考えられる磁気嵐を紹介しておきます。図10に,中緯度の磁気嵐として柿岡(日本)で観測した記録を,図11に高緯度の磁気嵐としてトロムゼー(ノルウエー)で観測した記録を示しました。
柿岡の磁気嵐は,赤い矢印を引いた16:30頃からH成分,Z成分,F成分が急激に強まり,17:30過ぎに最大強度に達し,その後22:00頃まで急速に弱まり(磁気嵐主相),徐々に回復し(磁気嵐回復相),翌31日まで続いた。高緯度のノルウエーのトロムゼー(69°40′N,18°57′E)で観測した 磁気嵐は, 赤い矢印で示した時間には磁場変化はほとんどなく,2本の黒い矢印で示した時間に,Z成分は正の,H成分は負の急激な磁場変化を示しています。しかも磁場変動量は,H成分とZ成分共に,1000nTから3000nTと非常に大きく,トロムゼーの磁気嵐は急激な速い磁場変動の重ね合わせから構成されているのです。柿岡の記録でも,2本の黒い矢印の時間に急激な磁場変化は見られますが,変動量は30nT以下で,トルムゼーの変化とは比べものになりません。