(4)太陽面爆発なしでも,磁気嵐は起こる

 

 図1に ,2008年1月2日の白色光で撮影した太陽像を示しましたが,2008年は太陽活動極小期で,年初めの1月上旬の太陽面には, 図の左縁に小さな黒点が見えているだけで,地球に影響を及ぼす領域には一つの黒点も現われていません。したがって太陽活動は静穏で,太陽面爆発も発生しませんでした。それにもかかわらず,図2に示すように,2008年1月5日に柿岡地磁気観測所で磁気嵐が観測されたのです。 図2に,世界各地の地磁気観測所からの報告を受けて作成された,2008年1月4日から7日までの地球規模の地磁気活動指数(Kp index)を示しましたが,Kp indexは1月4日21時頃から大きくなり,柿岡で記録した磁気嵐の開始時刻とほぼ同等しい1月5日9時頃から急に増加しており,地球スケールの磁気嵐が発生したことがわかります。

 太陽活動領域での爆発がなくとも,磁気嵐が発生することは以前から分かっていたことですが,なかなか原因を特定することができなかったのです。

(1)原因はコロナホールからの高速太陽風だった

 図4に,図1と同じ2008年1月2日に紫外線で観測した太陽像を示しました。白色光ではほとんど変化の見られなかった太陽表面も,紫外線で見るとのっぺらぼうなっ表面ではなく,すっかり違った顔に見えてくるのです。図の左縁に見えていた小さな黒点は,強い紫外線を放出しており,表面のところどころに 黒っぽい領域が見えています。黒っぽく見えるのは,紫外線の放射量が少ないためです。

 同じ日のコロナの様子を観測したのが図5です。強く光っている領域は, 単位時間当たりに放出されるコロナガスの量が周りに比べてはるかに多いことを意味しています。その後の研究で,この領域は図4の黒く見えている領域に対応していることが明らかになったのです。

 コロナから放出される太陽風が地球近傍まで到達した様子を人工衛星が定常的に観測しています。2007年12月30日から2008年1月23日までの地球近傍の太陽風の風速と数密度の観測結果を図6に示しました。風速は2008年1月5日から急速に強まっています。1月2日に放出された高速太陽風が,1月5日に地球近傍まで到達したのです。

 

 このような研究の積み重ねで,図4で黒っぽく見えているのは,強い太陽風が吹いているためコロナガスが少なくなっている ことが明らかにされ,コロナに穴があいたように見えることから「コロナホール」と呼ばれているのです。

 もう少しコロナホールについて説明しておきます。図7に,名古屋大学太陽地球環境センターが太陽風観測から計算した2007年の太陽面上に投影した太陽風の年平均風速分布図を示しました。太陽活動極小期近くの特徴で,太陽赤道面付近で太陽風風速は最も弱くなっているのが分かります。注目するのは,赤道領域に入り込んで高速領域が2箇所存在していることです。 高速太陽風は「コロナホール」から吹いているので,2007年の「コロナホール」は赤道域の2つの領域で発生しやすかったことを意味しているのです。毎日の観測から,「コロナホール」は 太陽面上の同じ場所に定常的に存在しているのではないことも,発生するとしばらく存在し続けることも明らかにされており,長いこと謎だった「27日回帰性磁気嵐」の原因は「コロナホール」からの高速太陽風ということで決着することになった のです。