(5)磁気嵐の発生には,惑星間空間磁場の南北成分も影響する

 

(1)観測から明らかになった惑星間空間磁場

 人工衛星SOHO(Solar & Heliospheric Observatory)が観測した ,2002年9月13日から10月10日までの惑星間空間磁場(上の2つのグラフ)と太陽風(下の3つのグラフ)の変化を図1に示しました。太陽風の風速や密度が変化しているだけでなく,太陽風が運んできている惑星間空間磁場も変化しているのがわかります。惑星間空間磁場の中で磁気嵐の発生に関係しているのは南北成分で,南向きになっている方が北向きのときより磁気嵐が発生しやすいことが明らかになったのです。

 惑星間空間磁場が南向き成分を持つか,北向き成分を持つかによって,磁気圏磁場との相互作用に大きな違いが起こるのです。惑星星間空間磁場が南向きか北向きかによって磁気圏 にどのような違いが生じるのかを模式的に示したのが図2です。

(2)南向き惑星間空間磁場は,開いた磁気圏を形成する

  図2に模式的に示すように,惑星間空間磁場が北向き成分をもっている時は加算され,磁気圏磁場はその分強まるだけですが(下図),南向き成分をもっている時には減算になるので,磁気圏磁場の強さが0になるところが生じ,地球磁力線と惑星間空間磁場の磁力線との つなぎかえが起り,惑星間空間磁場の磁力線と連結した「開いた地球磁力線」が存在するようになります(上)。開いた磁力線にはプ 太陽風荷電粒子が巻きついているので,磁力線に沿って磁気圏内に侵入することもできるようになるため,磁気嵐やオーロラの発光に重要な役割を果たすと考えられているのです。

 南向き成分を持った惑星間空間磁場が太陽風と一緒に磁気圏に衝突し,通り過ぎていくときに発生すると予測される物理過程を模式的に示したのが,図3です。図3の数字を追いながら,意味する内容を説明しておきます。

(3)惑星間空間磁場が南向きの時の磁気圏構造

 人工衛星の観測から明らかになった,惑星間空間磁場が南向きの時の磁気圏構造の概略を示したのが図4です。 静穏時の太陽風(Solar wind)は秒速300km以上で磁気圏に衝突しているので,太陽風が吹き付けている磁気圏前面には衝撃波(Bow Shock)が存在しています。衝撃波面と磁気圏境界(Magnetopause)との間隙を 磁気圏シース( Magnetosheath) と呼んでいます。図4のカスプ(Cusp)は,「開いた地球磁力線」が太陽風によって磁気圏の後方へと運ばれているためにできる「磁気圏の間隙」で,磁気圏の外に開かれた窓口です。オーロラの原因物質はここから入ってくるのではないかとの議論もありましたが,激しいオーロラ活動を説明することはできませんでした。

 磁気圏尾部では赤道面をはさんで,互いに反対向きの磁力線面が存在しているので,赤道面付近には 緑色に塗ってある長く延びたプラズマシート(Plasma sheet)が形成されており,夕方向き(紙面に対して垂直前向き)の電流が流れているのです(図4には電流は描いてありません)。

 磁気中性点(Neutral point)は磁気圏が静穏なときには,は地球半径の100倍も離れた領域で発生すると言われていますが,磁気嵐が発生するようなときには,地球に近い領域で,しかも磁気圏の変動に対応して,いくつも発生するのです。その結果,磁気圏尾部では地球に向かっての連続したプラズマの流れが発生します。プラズマの流れの速さや量は,太陽風の変動に依存した磁気圏尾部の構造変化に対応して変動するのです。