(6) オーロラと磁気嵐の原因を探る

 

 (1)プラズマ雲(CME)の衝突による磁気嵐 とオーロラ

 太陽面爆発で放出されたプラズマ雲(CME)が運んできた惑星間空間磁場の様子と,発生した磁気嵐の様子を図1に示しました。上の2つのグラフは,人工衛星で観測した磁気圏に衝突する前のプラズマ雲が運んできた惑星間空間磁場で,上が磁場の強さの変化を,下が磁場の南北成分の向きと強さの変化を示しています。下の2つのグラフは 地上で観測された磁気嵐の記録から求めた「AE指数」と「Dst」指数の変化の様子です。AE指数はオーロラ帯の地磁気変動量を表す指数で,Dst指数は低緯度の地磁気変動量を表す指数です。

 AE指数(オーロラ・エレクトロジェット指数)=オーロラが観測される地域(オーロラ帯)の平均的な地磁気変動量から算出した地磁気変動指数で, 平均的なオーロラの活動度を表す指数でもあります。

 Dst指数=赤道付近で観測された平均的な地磁気変動量から算出した地磁気変動指数です。

 図1の解像度ではよくわかりませんが,惑星間磁場が南向きの時,磁場の強さと連動してAE指数が大きくなり,北向きの時にはAE指数が小さくな ると云われています。高緯度の速い変動の磁気嵐は惑星間磁場の南向き成分に依存しているのです。

 

 惑星間磁場の南向き成分が,オーロラの発生・発達にも重要な役割を果たしていることも指摘されています。図2は,アラスカ大学の赤祖父教授(オーロラへの招待,中公新書1995)が観測から明らかにした,惑星間空間磁場の南北成分の変化とオーロラ嵐の進行状況を模式的に示したものです。惑星間磁場が北向きのときにはオーロラ活動は弱く,南向きになるとオーロラ活動は活発になり,南向き磁場が強まるとオーロラ活動は最盛期へと進行していくことをつきとめたのです。

 図3は,高緯度のノルウエー北部で観測された地磁気変動とオーロラの明るさ変動を示したものです。オーロラの明るさ変動は短周期の地磁気変動(サブストーム)とよく対応しており,地磁気変動量が大きくなると,オーロラの明るさが増すことも明らかです。サブストームの原因とオーロラを発光させる原因は同じだと考えてよいのです。

(2)中・低緯度で記録される,激しい磁気嵐の原因

(a)『磁気嵐の急始』と『初相』

 中・低緯度のほぼ全域にわたって発生する激しい磁気嵐(Dst指数)は,図1に示したように,『磁気嵐の急始』で始まり,『磁場が強まる期間(初相)』,『磁場の強さが急激に減少する期間(主相)』,『磁場の強さがもとの値に回復する期間(回復相)』に区分できることが多いのです。

  高緯度で発生する磁気嵐(AE指数)は,中・低緯度の磁気嵐のような大きなスケールの磁場変動より,速い磁場変動が卓越しており,しかも図1に示した「変動スケール」から明らかなように,AE指数の方がDst指数よりも変動幅が一桁も大きい のです。AE指数もDst指数と同じ時間に『磁気嵐の急始』で始まり,『初相』の時間帯の磁場変動量は小さく,『主相』の時間帯に速い磁場変動が最も顕著になるのです。

 図4に示したのは,人工衛星SOHOが観測した,磁気圏に到達する前の太陽風の風速・密度・熱運動の速さが不連続に増加している様子です。太陽面爆発によって放出されたプラズマ雲は秒速1000km以上の速さで太陽風に衝突するため,超音速衝突となり,太陽風とプラズマ雲の衝突面に衝撃波が発生するためです。

 図4に示すような衝撃波が磁気圏に衝突すると,磁気圏は急激に圧縮されるため,地球規模で地表面磁場の強さは急増すると考えられているのです。これが『磁気嵐の急始;SC(sudden commencement)』だと考えられています。衝撃波が通過した後,太陽風の風速・密度共に大きな値が継続している間は,磁気圏は圧縮されたままなので,地表面磁場が増加した状態が続 くのです。この期間が磁気嵐『初相』で,この期間がどれだけ続くかによって,初相の継続時間が決まるのです。

 (b)磁気嵐の「主相」,「回復相」 

 中・低緯度磁気嵐のDst指数に見られる主相や回復相の磁場変動の特徴は,地球磁場の値が急激に減少し(主相),ゆっくりと回復する(回復相)ことです。しかも,この傾向は低緯度 では水平成分(H成分)で顕著で,緯度が高くなるにつけ,鉛直成分成分(Z成分)にも見られるようになる特徴をもっているということです。このような地球磁場変動の特徴 は,図5に示すような地球を取り囲む「西向き電流(赤道環電流)」を考えると,うまく説明できます。磁気嵐の「主相」と「回復相」の特徴は「西向き電流(赤道環電流)」は,最初は弱く,その後急速に強まり,ある値に達すると 電流はゆっくり弱まっていくことで説明できます。

 問題はどうして「西向き電流(赤道環電流)」が流れるのかということです。問題を解く鍵は,磁気圏尾部で発生する物理過程にあります。磁気嵐が発生するようなときには,磁気圏尾部では地球に向かっての連続したプラズマの流れが発生します。プラズマの流れの速さや量は,太陽からのプラズマ流の変動に依存した磁気圏尾部の構造変化に対応して変動するのです。

 磁気圏尾部から地球に向かって流れ込んできたプラズマは,地球に近づくほど磁場が強くなっていることを感じ,「+の電気」を持ったイオンは西向きに,「−の電気」を持った電子は東向きにと,それぞれ反対向きに地球を取り囲むように運動する(磁場勾配によるドリフト)ため,結果として,図5に示すような地球をほぼ円形に取り巻く「西向き電流(赤道環電流)」が流れるようになるのです。「西向き電流(赤道環電流)」の強さや継続時間は,プラズマシート内における地球に向かってのプラズマの流れに依存します。したがって,磁気嵐の「主相」や「回復相」の強さや継続時間も太陽からのプラズマ流に支配されることになるのです。

(3)高緯度磁気嵐を特徴付けているサブストーム

 高緯度の磁気嵐(AE指数)に見られる振幅の大きい短周期変動(サブストーム)は,オーロラ帯の電離層に流れる電流(オーロラ電流)がつくる磁場で説明されています。 電流を担っているのは数10keVのイオンと10keV程度の高温の電子です。このような高温プラズマは,磁気圏尾部から地球近傍へと運ばれてきたものと考えられています。

 また,磁気中性点より地球側では地球磁力線は閉じた磁力線になるので「磁気圏尾電流」は遮断され,流れなくなるはずです。遮断された「磁気圏尾電流」は,図 6に模式的に示したように,朝方側では再結合によって閉じた磁力線に沿っての地球方向への電流(沿磁力線電流),夕方側では再結合によって閉じた磁力線に沿っての磁気圏方向への電流(沿磁力線電流)となり, 「磁気圏尾電流」と接続する。朝方と夕方の沿磁力線電流をつなぐのが電気伝導度のよい電離層を朝方から夕方側へ流れる(電離層電流)です。結果として,図6に示すような『磁気圏尾電流』―『地球向きの沿磁力線電流』―『電離層電流(オーロラ電流)』―『磁気圏向きの沿磁力線電流』―『磁気圏尾電流』の電流系を構成すると考えられているのです。

 『沿磁力線電流』を構成しているのは,プラズマシート内で加速された高エネルギーの電子やイオンであり,電離層領域で大気原子・分子を励起し,オーロラを発光させるだけのエネルギーは十分に備えています。沿磁力線電流が原因で流れる電離層電流(オーロラ電流)は十分に強く,図 1に示すような磁場を発生し,Sub-stormの原因になり得るのです。発生する磁場は電離層電流の強さ・向き・継続時間に依存して変動します。 電離層電流は,オーロラの明るさと連動して短周期で激しく変動するので,地磁気変動も短周期のSub-stormとして観測されると考えてよいのです。これが『磁気圏嵐』と呼ばれるオーロラ嵐と短周期の地磁気変動(Sub-storm)の 始まりです。この状態が継続すると,オーロラ嵐や短周期の地磁気変動(Sub-storm)は発達するし,この状態から開放されると,磁気圏尾部は回復段階に入るのです。

 赤道環電流は,磁気圏尾部での磁力線の再結合によって生じる地球方向への高速プラズマ流のドリフトの積算として発生すると考えられているので,オーロラ嵐や短周期の地磁気変動(Sub-storm)が繰り返し発生することによって発達するのです。高緯度で激しいオーロラが観測され,Sub-stormが起っていても,低緯度で磁気嵐が記録されないのはそのためです。