(3)オゾン層生成理論

 

 オゾン層の存在が知られ,研究されるようになったのは,今から約65年前の1930年のことです。超高層大気物理学の先駆者であるチャップマンが,大気中の酸素分子は太陽紫外線を吸収して2つの酸素原子に解離し,周りに存在している酸素分子と反応してオゾン層をつくることを理論的に示したのです。

(1)純酸素大気

  チャップマンは,オゾン生成に直接関係している大気中の酸素だけを問題にしたので,『純酸素大気』モデルと呼ばれております。 下に化学反応式で示したように,酸素分子(O2)は太陽紫外線(UV1)によって2つの酸素原子(O)に光解離される(1)ので ,生成した酸素原子が周りの酸素分子と化学反応してオゾンが生成される(2)のです。生成されたオゾンは太陽紫外線(UV2)によって光解離(3)されたり,酸素原子と化学反応して消滅(4)する ので,大気中に一定量のオゾンが存在することになるという考えです。

  + UV1 = O+O    (1)

 O + O = O3       (2)

 O + UV2 = O + O  (3)

 O + O = 2O2         (4)

 オゾン生成・消滅の反応式をイメージ図で示したのが,図1です。

  

       図1 純酸素大気で考えた,オゾンの生成と消滅機構の模式図

 チャップマンは大気中の酸素の高度分布と,光解離反応に関係する太陽紫外線の強度分布や化学反応係数を与えてオゾン層を理論的に推定したのです。

 世界的な規模でオゾン層観測が始まったのは,国際地球観測年(1957〜8年)からです。日本でも,1960年代から,北は北海道から,南は沖縄までオゾン層観測が行われてい ます。世界各地でオゾン層が実際に観測されるようになると,上部成層圏ではチャップマン理論値は観測値より多すぎることが明らかになり,上部成層圏にはオゾンを破壊する原因が他にもあると考えられるようにな りました。可能性があるのは,大気中に存在しているほかの物質との化学反応による破壊だけです。候補として上げられた成層圏に存在する物質は,HOx,NOx, ClOxで,人間活動によって地表面から放出された物質です。

(2)HOx,NOx, ClOxが存在している大気

 OとHOx,NOx, ClOxとの反応は,以下に反応式を示したように,HOx,NOx, ClOxなどは触媒として作用するので,存在量が少なくともオゾンを消滅させるのです。

HOxの触媒作用

 H+O=OH+O

 OH+O=H+O

 OH+O=HO+O

 HO+O=OH+O

NOxの触媒作用

 N+O=NO+O

 NO+O=N+O

 NO+O=NO+O

 NO+O=NO+O

ClOxの触媒作用

 Cl+O=ClO+O

 ClO+O=Cl+O

 上の議論はHOx,NOx,ClOxが独立に存在しているとした反応だけですが,共存しているときには,下に反応式を示したように,互いに反応しあって,HOx,NOx, ClOxを消滅させてしまう効果もあり,独立して考えたときに比べ,オゾン消滅を緩和する作用があることもわかってきています。

 OH+NO+M=HNO+M

 Cl+HO=HCl+O

 ClO+NO=NO+Cl

 ClO+NO+M=ClONO+M

 また,理論計算では対流圏オゾンは非常に少ないのですが,観測値は対流圏にもかなりの量のオゾンが存在していることを示したのです。対流圏オゾンの量は光化学反応によるオゾン生成だけでは説明できないので,成層圏でつくられたオゾンの一部が,対流圏に入り込んでいると考えられているのです。

 オゾン層について,この程度までのことが明らかになったのは1970年代のことです。その後は,オゾン層について特別に問題になるようなことは見つからなかったし,オゾン層研究者もあまり多く ありませんでした。