(4)オゾン層を破壊しているフロンとはどんな物質なのか

 

 @フロンの誕生

 1928年,ゼネラル・モータース社の技師トマス・ミッジリが,電気冷蔵庫の冷媒として使われていた危険なアンモニアガスに代わる,安全で冷却効率の高いガスを開発するよう命じられたことに始まったといわれています。 

 彼はフッ素と炭素を結合すると,無味無臭・しかも無毒で不燃性のガスをつくることができるはずだと考え,ほかの研究者の考えをも取り入れながら合成したのがフロンです。アメリカの大化学会社,デュポン社がこのガスに関心を持ち,1930年代の初めに「フレオン」という商品名で販売するようになった。

 それまでの危険なアンモニアガスに代わって,無味無臭・無毒で不燃性の「フレオン」が誕生したことは20世紀の文明にとって画期的なことであった。冷蔵庫やエアコンは驚異的に発達し,一般家庭や車にまで広く利用されることになった。また,酷暑の熱帯地方にも大都会が出現することを可能にすることになったのです。フロンガスは,20世紀最大の発明ともいわれる所以です。

 Aモントリオール議定書で規制の対象になっているフロン

 最初に合成されたフロンは,メタン(CH)の4つの水素をフッ素と塩素で置き換えた,フロン11(トリクロロフルオロメタン;CClF)と,フロン12(ジクロロジフルオロメタン;CCl)です。炭素と塩素とフッ素の化合物であるフロンは,化学的に非常に安定で壊れにく く,地表付近で大気中に放出されても壊れないし,水にも溶けないため,雨で洗い流されることもありません。続いていくつかのフロンが合成・使用されてきましたが,モントリオール議定書で規制の対象になったのは表 1に示したものです。

表1 モントリオール議定書で規制の対象になっているフロン

コード番号

 化学式

沸点

寿命(年)

CFC-11

CCl3F

24

71

CFC-12

CCl2F2

-30

150

CFC-113

CCl2F・CClF2

48

117

CFC-114

CClF2・CClF2

4

320

CFC-115

CClF2・CF3

-39

550

  対流圏内でのフロンの寿命は,表1に示したように,数10年から数100年と長いため,対流圏界面を通して徐々に成層圏まで拡散していくのです。成層圏に運ばれたフロンは強い紫外線にさらされ,光解離作用によってClを放出し,<(2)オゾン層生成理論とオゾンホール>で説明したように,オゾンを破壊し続けるようになるのです。学問的に議論すべき問題はまだまだ残されていますが,オゾン層保護の立場からは,一日も早く,フロンの使用規制を考える必要に迫られ,1987年9月モントリオ−ル外交官会議において,[オゾン層を破壊する物質に関するモントリオ−ル議定書]を採択することになったのです。

 フロンが使用されるようになったのは1950年以降ですが,大気中へのフロン放出量が急激に増加することになったのは1960年以降です。オゾン層の研究が進み,フロンはオゾン層破壊物質であることが指摘されると,先ずヨーロッパでフロン使用規制の動きが始まり,遅れて最大の使用国であった米国も使用規制にふみきったので,1974年以降はフロンの生産量・放出量は増加することなく,むしろ減少傾向を示すようになったのです。

 環境省・地球環境局発行の行政資料パンフレット「オゾン層を守ろう」(平成15年9月)の中に,北海道(N)と南極昭和基地(S)で観測されたフロン等の大気中濃度の経年変化を示した図が紹介されているので,借用して図1に示しました。大気中濃度が増加している時期には,北海道(N)の方が南極昭和基地(S)より大きな値を示していましたが,濃度が減少し始めてから差が小さくなり,最近は殆ど差はなくなっていることが分かります。大気中の寿命の短いCH3CCl3は1992年頃から急速に減少し,CFC-11,CFC-12,CFC-113は,1990年頃から横ばいになり,最近は減少傾向を見せるようになっていることが読み取れます。

 

Bわが国における用途別フロン使用量の推移

 日本でもフロンが盛んに使用されるようになった,1979年以降の用途別フロン使用量を調べてみると,フロンの用途はどんどん膨らみ,冷却媒体のみならず,ウレタンホームのような発泡剤,エアゾール噴射剤,精密機器に使用される部品の洗浄用溶剤にと,生産量 ・使用量ともに,増加の一途をたどっていたのです。

 ちなみに,日本がモントリオ−ル議定書を発効させたのは,1989年1月になってからです。それ以降,日本でもフロンの生産量や使用量は減少していますが,自動車や冷蔵庫に使用されていたフロンはそのまま残っているのです。

 図2は,平成15年3月2日の朝日新聞に報じられていた記事からの抜粋ですが,平成14年10月に施行された,カーエアコンのフロン類を回収・破壊する法律に明示された,[カーエアコンのフロン回収の仕組み]です。

 車を廃棄する場合,所有者は郵便局かコンビニエンスストアでフロン券(2580円)を購入し,車につけて渡さなければならない仕組みになったのです。しかし,フロン券をつけて廃車された車のフロンが廃棄されるのは約1割程度に過ぎないと報じていました。残りのほとんどが再利用されているとも報じています。大量に生産・使用していた先進国での生産は終わっても,これまで生産・使用されたフロンが,回収も破壊もされずに残っていたり,再利用されている現実があるということです。2002年のオゾンホールが小さくなったのは,たまたま南極上空成層圏温度が高かったためであり,2003年には再び増大しています。オゾン層破壊問題はまだ終わっていないということです。