(5)オゾン層の重要性
(A)オゾン層は私たちを有害な太陽紫外線から守ってくれている
オゾン層が果たしている最も重要な役割は,有害な太陽紫外線を吸収して,地球表面を生物が生存できる環境に維持していることです。オゾン層破壊が進むと,それまで吸収されていた有害な太陽紫外線の一部が地表付近まで入ってくるようになり,地球表面は生物にとって安全な環境でなくなってしまう危険があるのです。
最近は太陽紫外線に対する関心も高まり,紫外線UV-A(315-400nm)は<しわの原因>になり,UV-B(280-315nm)は<しみの原因>になるなど, 紫外線は波長によって働きが違うことも知られるようになりました。太陽紫外線をUV-A(315-400nm), UV-B(280-315nm), UV-c(100-280nm)の3つに分けて,オゾン層に吸収される割合の違いはどうなっているのかの概略を示したのが図1aです。
地表付近に書き込んだ,「直達」は太陽方向から入射してくる紫外線のことで,「散乱」は空気分子によって散乱された紫外線,「反射」は地表面で反射された紫外線という意味です。紫外線は 可視光線や赤外線に比べて,空気中で散乱されやすく,地表面に到達する紫外線は,直達光よりも散乱光の方が強いくらいです。そのため,日陰にいても日焼けするのです。紫外線は地表面での反射も多く,地表面が雪で覆われたりすると,地表面に届いた紫外線の80%近くが反射され,雪焼けの原因になっているのです。
図1a から最も波長の長い領域のUV-Aは,オゾン層ではほとんど吸収されることなく地表面まで到達しており,オゾン層が破壊されてもあまり影響されないことがわかります。次に波長の長い領域の紫外線UV-Bは,かなりの部分がオゾン層で吸収され,残りが地表面まで到達しており,最も波長の短いUV-Cはほとんど全部がオゾン層で吸収されていることがわかります。
オゾン層が破壊されたときの地上に到達する紫外線強度の波長による違いを示したのが図 1bです。1は現在のオゾン量で,現在の10分の1(1/10),100分の1(1/100),1000分の1(1/1000),オゾン層が完全に消失した(0)時の地上に到達する紫外線強度の推定値を示しています。
図から明らかなように,UV-Aはオゾン層に影響されることはなく,UV-Cもオゾン量が現在の10分の1(1/10)になってもほとんど全部吸収されるので影響されません。しかしUV-Bは全オゾン量に強く依存しており, オゾン層破壊が進み,オゾン量が現在の1/10まで減少すると,地表面に到達する紫外線強度は,現在より1000倍以上も強くなることが読み取れます。オゾン層破壊が特に問題になるのは,紫外線UV-B(280-315nm)だということ がお分かりいただけるでしょう。
図2は生物の遺伝子をつかさどっているDNAが吸収する紫外線と,オゾンが吸収する紫外線の波長依存性を示したものですが,二つのグラフは重なり合っており,両者は非常によく似ている ことがわかります。上で説明したように,オゾン層が破壊されると,最も敏感に反応するのは太陽紫外線の中のUV.B(280〜320nm)です。太陽紫外線の中のUV.B(280〜320nm)の強さが変動すると,生物 はどのような影響を受けるのかについても研究が進んでおり,植物は光合成が抑制されること,動物は日焼けが増すことなどが指摘されています。しかし,これはほんの一部の 研究結果に過ぎず,小さな水中生物に対する影響はもっと大きいと指摘する人もいます。まだまだわからないことが多い問題なのです。
(B)熱帯地方の原住民は肌の色が黒いのは太陽紫外線から身を守るため
各季節における全オゾン量の緯度変化を図3(島崎達夫著「成層圏オゾン」東大出版会,1989より転載)に示しました。実線で示した6月は,北半球が夏で南半球は冬,破線で示した3月は,北半球は春で,南半球は秋です。全オゾン量は季節によって違い,顕著な緯度変化を示しているのです。特徴的なのは,季節に関係なく,全オゾン量は赤道付近の低緯度で最も少なくなっていることです。地球規模で見ると,四季を通じて赤道付近の低緯度で太陽紫外線は最も強いことがわかります。
熱帯地方の原住民の殆どが黒人なのは,常に強い紫外線にさらされているため,皮膚全体からメラニン色素を出して,強い紫外線から身を守っているのだといわれています。紫外線が原因の一つであると考えられている,皮膚ガンの発生について白色人種だけについて調べた結果が図4(1970年,北米;島崎達夫著「成層圏オゾン」東大出版会,1989より転載) です。
資料は1970年北米での調査結果ですが,参考までに紹介しました。皮膚がんには『悪性皮膚がん』と『非悪性皮膚がん』があ るといわれていますが,『悪性皮膚がん』,『非悪性皮膚がん』ともに,太陽紫外線の強い低緯度で発生率が高くなっていることがわかります。
紫外線は皮膚で反応するため,紫外線に対して無防備な白人は,低緯度に住んでいる人ほど強い紫外線を受けるので,紫外線による“日焼け”で皮膚に“しみ”ができ,“しみ”が皮膚ガンに変わりやすいためだと考えられています。低緯度に住んでいる肌の黒い原住民について調べると,紫外線に対しての防御ができているため,皮膚がん発生率は少なくなっているといわれています。
オゾン層が破壊されると,最も影響を受ける紫外線は,UV-Bであることを説明しましたが,『非悪性皮膚がん』は長期間UV-Bにさらされた部分に徐々に成長するもので,老人に多いのに対して,『悪性皮膚がん』はUV-Bに直接さらされない皮膚にも発生することも知られており,オゾン層破壊が進むと,皮膚がんの発生する危険性が増大すると考えられているのです。最近の研究では,子供のころに強い紫外線を受けた人は,成人した後で,皮膚がんになる人が多いとも聞きました。詳しいことは分かりませんが・・・・・