(3)台風の一生

1)台風の発生から消滅までの具体例

 2007年の夏は猛暑で,太平洋の海水温も高く例年より高い緯度でも台風が発生した。一例として2007年8月29日に南東海上で発生した台風9号を紹介しておきます。

 図1は台風9号が発生してから温帯低気圧に変わるまでの経路と,ひまわり雲写真で見た台風の盛衰を示したものです。

 8月29日に発生した台風9号は北上し,48時間後の8月31日には進路を西よりに変えた。発生から144時間後の9月2日には発達しながら小笠原諸島の北海上を西に進んでいた。

 192時間後の9月6日には,台風9号は眼がはっきり見えるまでに成熟し,伊豆諸島の西海上を北上しており,9月7日00時前に強い勢力を保ったまま静岡県伊豆半島南部に上陸した。上陸した後は勢力を弱めながら関東地方から東北地方を縦断し,9月8日01時前には北海道に達し,9月8日09時頃に石狩湾付近の海上で温帯低気圧に変わった。

 記憶している人もいるかと思いますが,東海から北海道にかけて大雨と暴風による被害が多発した。気象庁の報告によると,「死者1名,行方不明者1名,負傷者87名,住宅全壊14棟,半壊62棟,一部損壊596棟,床上浸水302棟,床下浸水1043棟などとなっています。

2)台風の一生

 台風の解説書では,台風の一生を「発生期」―「発達期」―「最盛期」―「衰退期」と区分して ,誕生から消滅までを説明しています。発達した台風の中心を通る鉛直断面内の構造を図2に示しました 。中心の黒く見えているところが台風の眼で,周りを成層圏まで達する背の高い積乱雲群が取り囲み,台風域内に積乱雲群が発生していることがわかります。台風は非常に発達した積乱雲の群れであり,台風の盛衰は積乱雲群の盛衰だということを,2007年の台風9号を例に説明しておきます。

 熱帯低気圧が発達しながら北上し,8月29日09時頃,上昇気流が強まって積乱雲群が発達し,中心付近の最大風速が17.2m/s以上になったので<台風が発生した>と報道されたのです 。熱帯低気圧が発生して台風に成長するまでの期間を『発生期』と呼んでいます。

 発生した台風9号内部に,暖かい海面から大量の水蒸気が供給されるので,水蒸気が凝結するときに発生する「潜熱」をエネルギー源として台風9号は発達しながら北上し,8月31日には進路を西に変えて進み,9月5日には中心付近の風速が最大に達しました。発達して中心付近の風速が強まったため,台風の眼がはっきりしてきました。台風が発生してから中心付近の風速が最大になるまでの期間が『発達期』です。

 台風9号は勢力を保ったまま伊豆半島の西海上を北上し, 9月7日00時前に強い勢力を保ったまま静岡県伊豆半島南部に上陸した。上陸すると台風内への水蒸気の補給がなくなるため,台風は急速に勢力が弱まるのです。台風が最大勢力を保っている期間を『最盛期』と呼んでいます。

  日本列島に上陸した台風9号は海面からの水蒸気の補給が絶たれ,勢力を弱めながら関東地方から東北地方を縦断し,9月8日01時前には北海道に達し,北からの寒気の影響も加わり,その日の09時頃に台風本来の性質を失って,石狩湾付近の海上で寒気と暖気の境である前線を伴う「温帯低気圧」に変わった。台風9号が日本列島に上陸し,石狩湾付近で「温帯低気圧」に変わるまでの期間が『衰弱期』と呼ばれるのです。