(4)台風の発生・接近・上陸数と経路

1.台風の発生・接近・上陸数

  気象庁のホームページに公開されている<台風データベース>を利用して作成した,1951年から2008年9月までの『台風の発生数と,日本への接近数・上陸数の経年変化』のグラフを図1 に示した。

<注>接近数というのは<日本から300km以内まで「接近」した台風の数> と定義されています。

 台風の発生数は,多い年で40個程度,少ない年は20個程度で,平均値を計算すると1年間に約27個になります。そのうち日本に接近するのは数個以上 ,20個以下で平均すると年間約11個となります。上陸するのはそのうちの数個で,平均値は約3個です。

 発生数が最も多かったのは1967年の39個で,次が1971年と1994年の36個でした。地球温暖化がすすむと,台風の発生数が増えるともいわれていますが,このグラフから見る限りでは,1994年以降はむしろ減少傾向にあるようです。特に,1998年と2008年は発生数が極端に少なくなっており,地球温暖化と台風発生数との関係も統計的な話で,このようなグラフからすぐに見えてくること ではありません。記憶している人も多いと思いますが,2004年は発生数は平年並みでしたが,日本への接近数と上陸数が例外的に多かったのです。なぜそうなったのか,理由はわかりません。

 『発生数に対する日本への接近数と上陸数の割合』で示したのが図2です。日本への接近数と上陸数を台風の発生数に対する割合で示すと,年毎の変動幅が大きくなるのは ,接近数や上陸数は発生数だけに依存して決まるのでないということです。

 図2から,多い年には発生数の60%以上の台風が日本に接近し,20%以上の台風が上陸したことがわかります。2000年と2004年には接近数の割合が60%を越えており,2004年は上陸数の割合も30%以上と飛びぬけて大きくなっているのが目立ちます。 これもなぜなのかは,よくわかりません。

 図3は1951年から2008年までに発生した台風について,月別発生数・接近数・上陸数の平年値を示したものです。月ごとの発生数は棒グラフの高さで,接近数は棒グラフから白い上部を除いた値,上陸数は青いグラフの高さになります。発生数 が最も多いのは8月で2番目は9月,3番目は7月と10月がほぼ同数で続いていることがわかります。接近数も,同じような傾向を示しており,統計的には台風は夏から秋にかけての現象であることがよくわかります。

2.台風の発生地域は季節変化する

 図4は,1970年から1997年までに発生した台風の発生位置を示したものです(宮教大の学生が卒業研究で解析した図)。エルニーニョが発生しているときを赤印で,発生していない時を黒印で区別してあります。ほとんどの台風が北緯5度から35度,東経100度から180度の範囲で発生していますが,エルニーニョの時の方が北緯5度から20度の範囲に集中し ており,東経160度より東の方での発生が多いように思われます。

 赤道から北緯5度付近までは台風が発生していませんが,台風が発生するためには『コリオリの力』が必要だということの証明にもなっています。『コリオリの力』は赤道では0で,北緯5度付近までは小さすぎるため発生できないと考えられているのです。

 台風が発生しているのは北緯5度より北なので,熱帯収束帯の中心が南半球に位置している季節には台風の発生は極端に少なくなるのです。7・8・9月には熱帯収束帯の中心が台風の発生領域内にあり,しかも海水温度も上昇するため,台風の発生条件を十分に満たすようになり, 図3に示すように発生数が多くなるのです。

3.台風の経路は季節によって変わる

 沢山の台風について発生して以降の経路を調べた結果をまとめたのが図5です。今では古い資料になってしまいましたが,月ごとの代表的な経路があることがわかります(実線は主な経路,破線はそれに準ずる経路)。 主たる経路で見ると,6月ころまでの台風は低緯度で発生し,西に進んでフィリピン方面に向かうのが多く,7,8,9月の台風は西進から東進へと方向を変える傾向があり,発生する緯度 も高くなる傾向があります。8月,9月に発生する台風が日本に最も接近することがわかります。台風シーズンと呼ばれる所以です。

『少し理屈っぽい話』

 台風の経路について『少し理屈っぽい話』をします。台風は川の流れの中に発生した『渦』と同じようなものなので,台風の経路は地球規模の空気の動き(大循環)に支配され るのです。しかも台風は背が高いので,台風の動きを支配するのは地表付近の空気の動きではなく,対流圏全体の空気の動きなのです。

 台風が発生するのは,大循環の中の『ハドレー循環』と呼ばれる『北東貿易風』が吹いている領域です。したがって,台風の動きを支配する上空までの風は『東風』で,発生した台風は西に流されます。それに加えて,緯度が高くなるほど『コリオリの力』が大きくなる効果も作用 するため,反時計回りの渦巻きである台風は北向きに移動する力を得るので(参考までに,気象学ではベータ効果と呼ばれる),熱帯収束帯で発生した台風は太平洋高気圧の南の縁を北西 方向に流されるのです。

 中緯度では上空まで偏西風が吹いているので,偏西風が吹いている領域まで北上してきた台風は進路を東向きに変え(転向と呼ぶ),その後は北東方向へ進むようになるのです。上の図で見られるように,7・8・9・10月の台風はこのような経路をとるのが多いのです。図では,7月に最も西よりの経路をとり,8月・9月・10月と経路を東よりに変えていますが,これは太平洋高気圧の位置や勢力に強く依存しているのです。

 8月の台風は迷走台風になったり,進路予想が非常に難しいのは,台風を流している大きな空気の動きが弱く,ほかの台風や低気圧,高気圧との相互作用など,他の影響を受けやすくなっているためです。

 9月以降になると,太平洋高気圧の縁に沿って,南海上から放物線を描くように日本付近を通るようになります。このとき秋雨前線の活動を活発にして大雨を降らせることもあります。過去に日本に大きな災害をもたらした室戸台風,伊勢湾台風など多くの台風は9月にこの経路をとっています。

 この説明も,いわゆる一般的な理屈としての解釈であり,どんな台風もここの理屈どおりに進むとは限りません。自然は常に変動しているのです。