(5)台風に伴う雨の特性
台風は積乱雲の集合体で,暴風とともに広い範囲に長時間にわたって大雨を降らせます。図1に発達した台風の鉛直断面の模式図を,図2に発達した台風の降雨帯の模式図を示しました。十分に発達した台風では,垂直に発達した積乱雲が眼の周りを壁のように取り巻いており,そこでは猛烈な暴風雨となっています。この眼の壁のすぐ外は濃密な積乱雲が占めており(内側降雨帯),激しい雨が連続的に降っています。さらに外側の200〜600kmのところには帯状の降雨帯があり(外側降雨帯),連続的に激しいにわか雨が降ったり,ときには竜巻が発生することもあります。
図3に示したのは,2002年10月1日9時の天気図ですが,台風21号と秋雨前線による雲が日本列島を広く覆っているのがわかります。このように日本付近に前線が停滞していると,台風が運んできた暖かくて湿った空気が前線に向かって流れ込むため,前線の活動を活発化させ,大雨となることがあるのです。
台風21号は進行速度が速かったため,雨による大きな被害はもたらしませんでしたが,動きの遅かった2000年の台風14号(図4)は,南の海上にあった時から本州付近に停滞していた秋雨前線の活動を活発化させ,9月10日から15日までの6日間にわたって各地に大雨を降らせ,東海地方に大きな被害をもたらしました。
図4の雲写真には,四国から東海地方にかけて白い雲の塊(背の高い積乱雲の集団)が見えていますが,9月11日,東海地方は記録的な豪雨に見舞われたのです。夕方18時から 19時までの1時間雨量は名古屋市で93mm,東海市で114mmと記録的な豪雨となったのです。この雨は翌12日朝まで降り続き,名古屋市や東海市での総雨量は 600mm近くに達し,名古屋市新川の堤防が決壊し,19万世帯37万人以上に避難勧告が出されるほどの水害に見舞われたのです。
Weathernewsの<気象と災害>,00/09/15放送の『東海豪雨』の説明図(図5,6)を拝借すると,ゆっくりとした速度の台風14号が南海上にあり,台風が運んできた暖湿流(図6の湿舌)が秋雨前線に流れ込み,地形による強制上昇と上空にある寒気の影響が重なり,前線上の積乱雲は非常に発達し,豪雨をもたらしたのです。
図5 200年9月11日の天気図 図6 前線上の雲の発達の説明図
台風がもたらす雨は,このように台風自身の雨のほかに,前線の活動を活発化して降る雨もあることを忘れてはいけません。