(6)台風に伴う風の特性

 台風の「強さ」は最大風速の大きさで,『強い』『非常に強い』『猛烈な』の3つの階級に,台風の「大きさ」は強風域(平均風速15m/s以上の強風が吹いている範囲)の半径で『大型』と『超大型』の2つの階級に区分されています。台風が『成長する』・『発達する』という表現も,『暴風が強まる』・『暴風域が広くなる』ということで,台風とは巨大な暴風の渦を意味しているのです。

  図1にスペースシャトルから見た台風の拡大写真を示しましたが,台風は巨大な空気の渦巻きで,強い風が中心に向かって反時計回りに吹き込んでいる姿がよくわかります。

 風を吹かせる原動力は気圧傾度で,気圧傾度が大きいほど強い風が吹くので,台風に伴う風も中心示度(気圧)が小さくなるほど強まると考えてよく,台風の強さの変化を表すのに中心示度(気圧)が用いられるのです。

 台風や低気圧のような円形等圧線で表現できる条件下で吹く風は,理論的には,風速は中心からの距離に依存するだけで,対称になるはずです。しかし実際に観測された台風内の風速分布は,図2に示した日本に上陸した3つの巨大台風の例のように,台風の進行方向に向かって右半円(東側)の方が左半円(西側)よりも風速が強いのです。これは台風自身の風と台風を移動させる風(大規模な風)が,台風の右半円では同じ方向に吹いているため加算され,台風の左半円では2つの風が互いに逆の方向に吹いているため減算されるためです。したがって,台風を移動させる風(大規模な風)が強いほど左半円と右半円の風速差は大きくな るのです。

 このような左右の違いはありますが,観測された台風域内の風速分布は,中心(気圧の最も低い所)のごく近傍の「台風の眼」の中は比較的風の弱い領域で,「眼」の周りの積乱雲が壁のように取り囲んでいる領域で風が最も強く,それより外側に向かってゆっくりと弱まっているのです。

<このような風速分布になることについての少し理屈っぽい話>

 中心気圧の方が低い円形等圧線では,摩擦力が働かないと風は反時計回りに等圧線に平行に吹くが,地表付近では摩擦の影響を受けるので,実際の風は反時計回りに螺旋を描きながら,周囲の空気が中心に集まるように吹いているのです。そして,このような空気の運動では角運動量(中心からの距離×風速)が保存されているため,空気が螺旋運動をしながら中心に近づく(中心からの距離が小さくなる)ほど,風速は強くなるのです。

 回転運動をしている物体には中心に近づけまいとする遠心力が働いており,遠心力は風速が強いほど大きくなるため,強い台風では空気は中心からある距離のところから先には進め ないことが起こるのです。進めなくなった空気は上空へと押しやられるので、台風の中心がすっぽりと穴が開くのです。こうやって台風の眼が発生するのです。熱帯海洋上の空気は沢山の水蒸気を含んでいるため,上空で凝結(あるいは昇華)して次々と雲を発生させます。凝結(あるいは昇華)の際には熱(潜熱)を放出して周りの空気を暖めるので,空気の上昇を助ける効果をもつのです。その結果として,この限界の位置では,強い上昇気流が起こっており,背の高い積乱雲が壁のように取り巻くことになるのです。周りから空気が入りこめない領域が台風の眼であり,当然風は弱まるし,時には青空が見えることもあるのです。

台風が接近して通過する場合,進路によって風向きの変化が異なる

 ある地点の真上を台風の中心が通過する場合は,台風が接近してくる間は,風向きはほとんど変わらないで,風速だけが強くなります。そして台風の眼の領域に入ると,風は急に弱まり,時には青空が見えることもあります。眼が通過した後は,風向きが反対の強い風が吹き返します。中心がある地点の西側または北側を通過する場合は,風向きは「東→南→西」と時計回りに変化し,東側や南側を通過する場合は,風向きは「東→北→西」と反時計回りに変化します。

  以上は海上のように一様な状態のところでの話で,周りに建物などがあれば,必ずしも風向きがこのようにはっきりと変化するとは限りません。台風の風は陸上の地形の影響を大きく受け,入り江や海峡,岬,谷筋,山の尾根などでは風が強まります。また,建物があるとビル風と呼ばれる強風や乱流が発生することもあります。道路上では橋の上やトンネルの出口で強風にあおられるなど,局地的に風が強くなることもあります。

 台風が接近すると,沖縄,九州,関東から四国の太平洋沿岸では竜巻が発生することもあります。また,台風が日本海に進んだ場合には,台風に向かって南よりの風が山を越えて日本海側に吹き下る際に,気温が高く乾燥した風が山の斜面を吹き下るフェーン現象が発生し,空気が乾いて乾燥しているため,火災が発生した場合には延焼しやすくなったりもします。このように書いてくると,台風に伴う風といっても,単純には答えられないといったほうが正しいのかもしれません。