T.晴れ,曇り,雨の日の違いは何?

 晴れの日と曇りの日の違いは,空気が雲の発生しやすい状態になっているか,発生しにくい状態になっているかです。雲は地表付近の水蒸気が上空に運ばれて飽和に達すると発生するので、曇りの日は 空気の状態が地表付近の水蒸気が上空に運ばれやすくなっているのです。雨は雲粒が成長して重くなり重力で落下してきたものだから,雨の日は雲粒が雨滴にまで成長できる条件を満足してい るということです。

 

 

 

 

 

 

(1)雲の発生に凝結核が必要なのはなぜ?

 水蒸気が飽和水蒸気圧(100%)で凝結するというのは,水蒸気を含んだ空気が平らな水面と接触しているときの話です。接触している水面が水滴の場合は,表面張力が影響するため,凝結が始まる水蒸気圧の値は100%より大きくな ります。表面張力の影響は水滴の半径が小さいほど大きいので,凝結が始まる水蒸気圧は小さな水滴ほど大きくなります。

 Wilsonが行った有名な霧箱の実験で,純粋な水蒸気だけを含んだ空気では,水蒸気圧が320 〜500%の過飽和状態にならないと凝結しないことが確かめられました。水滴の大きさが0.01μmでは112.5%, 0.1μmでは101.2%の過飽和状態にならないと凝結しないことも確かめられています。

 空気中で雲が発生する時の水蒸気圧を調べた結果はほぼ100%であり,雲は 0.1μm以上の大きさの水滴表面に凝結して発生していることがわかったのです。この役割を果たしているのが,0.1μm以上の大きさをもった,吸湿性の凝結核だと考えられています。

(2)凝結核

 凝結核になることができるのは吸湿性の物質です(乾燥剤と同じと考えればよい)。空気中には小さな塵やごみが沢山漂っています。その中で,吸湿性に優れた大小さまざまな塵やごみが凝結核の役割を果たしているのです(図1)。小さいものは大きさが0.001μm 〜 0.2μmで,エイトケン核と呼ばれ,空気1t中に10万個 程度存在しています。大きさが0.2μm 〜 1μmの大核は空気1t中に100個程度,大きさが1μm以上の巨大核は,空気1t中に数個程度含まれているといわれています。

  雲の中に存在している雲粒の数と凝結核の数はほぼ同数なので(図4),1つの凝結核に沢山の水蒸気が凝結して1つの雲粒をつくっているのです。大きな凝結核からは大きな雲粒がつくられるので,沢山の小さな雲粒の中に大きな雲粒がごくわずか存在していると想像すればよいでしょう。

(3)雲の種類と発生高度(十種雲形)

 日常見慣れている雲は発生高度から,上層雲,中層雲,下層雲の3つに分類され,雲の形状によって絹雲,絹積雲,絹層雲,高層雲,高積雲,層積雲,層雲,積雲,乱層雲,積乱雲の10種類に分類されています(図2)。それぞれの雲の発生高度は,緯度によっても違いますが,おおよその目安は図2を参考にして下さい。

 

(4)十種雲の雲粒の粒度分布と特徴

 絹雲・絹積雲・絹層雲は上層雲で,ほとんど全て氷晶(氷粒)からなる雲です。絹雲は低気圧や前線が進行している前方に現れることが多いため,天気がくずれてくる前兆といわれています。中層雲に分類される高層雲や高積雲は主に過冷却水滴からなる雲で,温暖前面付近に発生することが多い。層雲,層積雲は下層雲で,低気圧や前線そのほかの原因による大規模な,あまり激しくない上昇気流によって形成さ れることが多い。このような薄い雲は降水をもたらすことはほとんどありません。

 雨を降らせる雲は,台風や低気圧の中や,活発に活動する前線帯などで形成される背の高い積乱雲と乱層雲です。 雲粒の大きさも雲の種類によって違っています。図3に示すように,好晴積雲など雨を降らせない雲の雲粒は小さく,粒度分布も平均値付近に集中していのに,乱層雲のような雨雲の雲粒は大きく,粒度分布も小さいものから大きい雲粒まで広く分布しているがわかります。

  (5)雨雲になるための条件は?

 前に説明したように,雨は雲粒が成長して重力で落下してくる現象です。雲粒がどれだけ成長して雨滴になるのか,雲粒と雨粒の大きさで比較したのが図4です。代表的な大きさで比べると, 雲粒は10μmで,雨滴は1000μmですから,100倍の違いです。したがって,1個の雨粒は100万個の雲粒が集まって形成される計算になります。図の中で,空気1ℓ中の数は,雲粒が100万個で,雨粒は1個となっていることからも納得できるでしょう。

(6)100万個の雲粒が集まって1個の雨滴をつくるメカニズム

 空気中でどのようにして雨滴がつくられているのでしょうか。最も考えやすいのは,雲粒同士が衝突しながら合体することです。しかし, 100万個の雲粒が衝突・合体して1個の雨滴がつくられるまでに要する時間が長すぎ,降水の説明にはなりません。

6.1)冷たい雨

 効率よく雲粒が成長できるメカニズムとして着目されたのは,氷点下の雲の中では,氷晶と過冷却水滴が共存していることです。飽和水蒸気圧は過冷却水滴に対してよりも氷晶に対する方が小さいので(図5;飽和蒸気圧と温度の関係),氷晶近くに存在する過冷却水滴は蒸発して氷晶に昇華していくのです(図6)。

 

 

 

  

 

 その結果,氷晶は急速に巨大な雲粒に成長します。氷晶が形成されるためには,特別な氷晶核が必要ですが、有効な氷晶核の数は凝結核の数に比べると,はるかに少なく,氷点下10℃の雲で10個/m3,氷点下20℃の雲で103個/m3程度です。 しかし,氷点下の雲について過冷却水滴と氷晶の割合を調べた結果は予想外でした

 <調査結果>

  雲頂温度が0℃〜−4℃の雲:ほとんどが過冷却の水滴

  雲頂温度が−10℃の雲:氷晶を検出する確率は約50%  

  雲頂温度が−20℃以下の雲:氷晶を検出する確率は95%以上

  となっており,氷晶核の数より

    −20℃〜−30℃の雲では:10〜100倍

        −5℃〜−10℃の雲では:103〜104倍

 多いことがわかったのです。

 この解釈として,ある種の氷晶は壊れやすく,落下の途中で多くの破片に分裂し,その1つ1つが氷晶に成長できる自己増殖作用を持っているためであると考えられています。 急成長して大きくなった雲粒は,落下しながら小さな雲粒を併合し,成長を続けるので,「雪だるま」式に成長することができるのです(図7)。日本で降る雨は,ほとんどがこのメカニズムよると考えられています(冷たい雨)。

       

6.2)暖かい雨

 しかし,熱帯地方などで調べると,氷点下でない雲でも降水があるのです。それで考えられているもう1つの可能性は,小さな雲粒の中に小数の大きい雲粒が共存しており,大きな雲粒が小さい雲粒を併合しながら成長するメカニズムです。大きな雲粒が回りの小さい雲粒を併合しながら成長する割合は,どれだけ長い時間,併合作用を続けるかによって決まります。したがって,併合作用が続く時間は,雲の厚さと雲の中の上昇気流の強さに依存しているのです。

 上昇気流のある雲の中で,併合作用でどの大きさまで成長できるかを計算した一例を図8に示しました(300cm/sの上昇気流が存在する雲の中で,20μmの雲粒がどの大きさまで成長できるかを計算した)。この例では雲底から上昇気流で上空に運ばれ,終端速度が上昇気流と同じになる高さまで上昇し,その後は落下しながら成長するという計算をしています。その結果20μmの雲粒は2.5mmの雨滴にまで成長できるので,このメカニズムでも雨は降ることがわかります(暖かい雨)。