V.気温の変化を支配する要因は何?

 気象庁から報告されている気象資料を用いて,気温を支配している要因を考えます。

(1a)平均気温を支配する主たる要因は,観測地点が受け取る日射量

 30年間の平均値で調べた,日本気象官署の日平均気温,日最高気温,日最低気温の緯度変化をグラフで示したのが図1で,気温と緯度は直線関係にあることがわかります。日本列島の緯度範囲(北緯25度〜北緯45度)では,地表面が受け取る日射量は低緯度から高緯度に向かって直線的に減少していると考え てよいので,日平均気温,日最高気温,日最低気温の平均値は観測地点が受け取る日射量に支配されていることがわかります。

  緯度36度付近に直線から大きくずれた点が見えていますが,ほとんどが中部地方の標高の高い観測地点で,高度差を補正すると,直線にのります。

   

  (1b)一日の気温変化は観測地点の地域特性に依存する

 東北地方のアメダス観測点から仙台,古川,秋田,福島の4地点を選んで,気象条件の異なる2,006年5月3日,11日,21日の気温日変化を調べた結果を紹介します。

  図では,仙台をS,古川をF,秋田をA,福島をHの記号で表し,気温はT(℃),風速はV(m/s)で表しています。(例;仙台の気温=T(℃),古川の風速=V(m/s))

 @5月3日(沿岸地方では海風が観測された);

  5月3日午前9時の天気図を図2に示した。日本列島は広く高気圧に覆われており,東北地方もよく晴れました。

 当日の4地点の気温と風速の日変化を図3に示したが,矢印で示したように,秋田(緑線)では9時前から,仙台(青線)では11時 過ぎから海風が吹きました。仙台平野内陸部の古川(赤線)でも夕方4時(16時)頃から海風が観測されています。

 図3から明らかなように,秋田では海風が吹きだした9時頃から気温上昇が抑えられ,日中も気温は上がりませんでした。仙台の気温は海風が吹き込むまでは古川と同じように上昇していま いましが,海風が吹き込んだ11時過ぎから 急激に低下しています。

  古川では海風が観測された16時頃に気温の急激な低下が見られますが,内陸盆地の福島では気温変化はスムーズで,15時頃まで上昇を続け,その後降下しています。5月頃の晴天日の気温は,沿岸部では海風の影響を強く受けることが分かります。

A5月11日(東北地方を寒冷前線が通過した。朝方まで小雨模様のところが多かった);

5月11日 午前9時の天気図を図4に,4地点の気温と風速の日変化を図5に示しました。

この日,東北地方では明け方まで南よりの風が吹いていたが,寒冷前線が通過した後は,北西の風に変わった。

 寒冷前線が通過する前の夜中から朝方にかけての4地点の気温は,微風の古川で最も低く,8メートル近くの強い風が吹いた福島で最も高い。夜間吹く風は,上空の暖かい空気を地表付近に運んでくるため,福島の夜間気温は高くなったのです。

 地点ごとに,気温と風の特徴をみると,秋田では, 夜間は降水もあり気温も比較的高かったが,4時頃に寒冷前線が通過し,暖かい東よりの風から冷たい西よりの風に変わり,降水も弱まり気温が急激に降下した。その後も冷たい北西の風が吹き 続けたため,日中も気温は上昇しなかった。

古川でも,寒冷前線が通過した10時以降に強い北西の風が吹き,気温も降下し続けた。仙台と福島でも古川と同じように,10時頃から北よりの風に変わり,気温も降下し続けた。

B5月21日;(移動性高気圧に覆われていたが,4地点で西よりのやや強い風が吹いていた);

5月21日 午前9時の天気図を図6に,4地点の気温と風速の日変化を図7に示しました。

気温差はあるが,仙台・古川・福島の気温日変化はよく似ていた。

秋田の朝の最低気温が非常に低かったのと,日中の気温上昇 が抑えられた形になっているのが目立つ。秋田の最低気温が低かったのは,夜間晴れて微風だったため,放射冷却が強まったためで,日中の気温が低かったのは冷たい西よりの海風が入り込んでいたことで説明できる。

(1c)一地点の気温日変化を支配する要素は?

 仙台を代表地点に選び,2006年1月の中で連続した3日間の気圧配置が異なる3例を選び,気温と風速の日変化を示し,気温を支配する要因を探ってみる。

 @典型的な冬型気圧配置だった,2006年1月4日から6日までの3日間;

 図8に2006年1月4日から6日までの9時の天気図を示した。 4日は千島近海で低気圧が猛烈に発達し,仙台付近でも等圧線が込み合っていたが,5日から6日にかけて低気圧は勢力を弱めながら東進し,仙台付近の等圧線間隔も広がった。

 仙台管区気象台で観測した1月4日から6日までの3日間の気温と風速の変化を図9に示した。低気圧が猛烈に発達した4日は日中強風が吹き,低気圧が勢力を弱めながら東進した5日・6日と風は弱まった 3日間とも寒気が入り込んでいたため,日中の気温はあまり違わなかったが,5日夜間から6日朝方にかけての気温低下が目に付きます。微風晴天の夜だったため,まさに,放射冷却が強まったのです。

 

    

 

A3日間晴天が続いた2006年1月18日から20日までの3日間

  図10に2006年1月18日から20日までの9時の天気図を示した。3日間とも北日本中心に強い冬型の天気図で,18日は北陸から北の日本海側で雪,太平洋側で晴れ,19日は冬型が一層強まり(前日より北日本の等圧線が込んでいる),北陸から北の日本海側で強い降雪となった。20日になると,低気圧は弱まって北日本の等圧線間隔は広くなった。

 2006年1月18日から20日までの気温と風速の変化を図11に示した。18日昼頃から6〜8m/sの西北西の季節風が吹きだし,冬型がいっそう強まった19日は,一日中強い季節風が吹きまくった。20日には冬型は弱まり,風も弱まった。気温の日変化を見ても,強い季節風が吹きまくった19日は,日中の気温も上がらず特に寒い一日だったことが分かる。

 

 

 

 B気圧配置がめまぐるしく変化した2006年1月12日から14日までの3日間

 図12に2006年1月12日から14日までの3日間の天気図を示した。気圧配置がめまぐるしく変化した3日間で,12日は西高東低の冬型だったが,13日には動きの速い移動性高気圧が通過し,14日には気圧の谷が通過した。

  気圧配置が激しく変化したため,天気も変わりやすく,12日の日中は晴れていたが,夜になると曇りだし,夜半から13日の朝方にかけてみぞれが降った。午前中,陽が射すこともあったが13日から14日にかけて ,ぐずついた天気が続き,夕方から雨が降り出し,夜遅くに一時晴れ間がのぞいた。 12日から14日までの気温と風速の日変化を図13に示した。

 12日は強い北西の季節風が吹き,13日11時頃まで吹いていたが,その後14日の昼頃まで微風状態が続いた。気圧の谷が東海上に抜けた14日夕方から再び北よりの風が吹きだした。12日から13日昼頃までは,大陸から張り出してきた冷たい移動性高気圧の影響で気温は上がらなかったが,移動性高気圧が東海上に抜けた13日昼過ぎから,気圧の谷の影響で南よりの暖かい湿った空気が入り込み,夜になっても気温は下がらず,14日昼過ぎからは南岸低気圧の影響で,仙台にも南から暖かい湿った空気が入り込み,気温は上昇し,暖かい一日 となった。

(2)気温を支配する要素

1. 日 中

 日中の気温を支配する最大の要因は,地表面に到達する日射 (全天日射)です。太陽光は空気分子によって散乱されるので,地表面に到達する日射は,太陽から直接地表面に到達する「直達日射」と空気分子で散乱されて地表面に到達する「散乱日射」からなっており, 全天日射=直達日射+散乱日射  と考えればよい。

  直達日射と散乱日射の占める割合は,どれだけの空気の層を通過してくるかによって異なり,太陽高度が高いほど直達日射の占める割合が多くなります。天頂角約60°付近で,晴天の日に 調べた,直達日射と散乱日射の占める割合を波長別に示したのが図14です。波長の短い青い光ほど散乱日射の占める割合が多くなっていることが分かります。

 @地表面が受け取る日射量は天気によって大きく異なる;

  太陽が見えない曇や雨の日は,直達日射はほとんど0で,地表面まで到達しているのは散乱日射だけです。雲や雨滴は光を吸収するので,厚い雲に覆われて雨の降っている日は散乱日射も少なくなるため,空が暗くなるのです。毎日の気温はその日の天気によって違うことは経験的に知っていることです。

 A日中の地表面の熱収支

 日射エネルギーで暖められた地表面は、いろいろな物理過程を通して熱を空気中と地中に輸送して,平均的な温度を保っているのです。平均的な地表面温度は,地表面が受け取るエネルギーと放出するエネルギーがバランスした状態としての,「熱収支式」から計算されるのです。地表面の熱収支の概略を図15に示した。

 地表面熱収支の式は

 地表面が受け取る熱量=地表面が放出する熱量 で,

 地表面が受け取る熱量=地表面が受け取る日射

 地表面が放出する熱量=空気中に放出する熱量+地中への熱輸送

で,

 空気中へ放出する熱量=地球放射+顕熱(熱伝導)+潜熱(蒸発)

 地中への熱輸送=地中への熱伝導

です。

  顕熱というのは,地表面付近で暖められた空気が小さな渦巻となって上昇したり,風によって運ばれたりすることで空気中に熱を輸送することです。潜熱は温められた水面(地表面)から水蒸気が蒸発することによって水面(地表面)の熱を失うことです。

  その他に,風や地形等の影響によって熱が運ばれて来る「移流」も,時には大きな役割を果たすこともあります。移流には,寒冷前線の通過後の冷たい空気や,台風が運んでくる暖かい空気・・などが含まれます。 地中への熱伝導は地表面近くを構成している物質の熱伝導率が大きいほど効率よく輸送されるので、アスファルトやコンクリートの地表面温度は上昇し,水面温度はそれほど上昇しないのです。

2. 夜 間

 夜間は日射がないので,日中から日射エネルギーを除外して考えればよいので,夜間の地表面熱収支の概略は図13のようになります。

 B夜間の地表面の熱収支

 日中の熱収支の式から日射に関する項を取り除いたものとなるのですが,図16に示すように地表面が受け取る熱として大気放射が重要になります。温室効果を支配するのが,この大気放射です。

 地表面熱収支の式は

 地表面が受け取る熱量=地表面が放出する熱量

 で,

  地表面が受け取る熱量=下向き大気放射+顕熱+(凝結の潜熱)+地中からの伝道熱

 空気中へ放出する熱量=地球放射+(蒸発の潜熱)

です。

 雲は地球放射を効率よく吸収するので,曇りの日には雲からの放射も「大気放射」として大きなウエイトを占めることになり,夜の冷え込みを和らげます。さらに,日中と同様,風や地形等の影響によって熱が運ばれて来る「移流」も,時には大きな役割を果たします。