(3)オーロラの光
オーロラの光の正体を知るために,多くの研究者がプリズム(図1,左)を使った分光器でオーロラのスペクトル観測に挑戦しました。最初に挑戦したのが,ノルウエ−の物理学者オングストロ−ムで,最も一般的な緑白色のオーロラの波長測定を試み,波長が, 5577Å(557.7nm)であることを明らかにしたのです。1850年頃のことです。その後,赤や青いオーロラなど,沢山のオーロラについてスペクトルを調べた結果,どのオーロラの光も太陽光の連続スペクトルとは違い,線スペクトルや帯スペクトルであることが明らかになったのです(図 1,右)。
図1(左) 太陽光はプリズムを通すと7色に分かれる。(右)太陽光の連続スペクトルと,典型的なオーロラ光の線・帯スペクトルの波長,オーロラ光を放出している元素名。紫から青の帯スペクトルは(N2+), green(5577Å)は酸素原子,dark red(6300Å)は酸素原子,オーロラ活動が活発な時に見られる赤の帯スペクトルは窒素分子 であることが明らかになっています。
真空放電実験(次のページで説明)から,線スペクトルは原子が放出する光であり,帯スペクトルは分子が放出する光であることが 確かめられ,オーロラは原子や分子の発光現象であることが確認されたのです。実験室内でのスペクトルの研究(真空放電実験)との比較から,オーロラを発光させている原子や分子が特定されたのですが,不思議なことに,オーロラでは最も一般的な緑色の光(5577Å (557.7nm)を放出する原子は,なかなか見つからなかったのです。
最も一般的な,オーロラの光5577Å(557.7nm)の正体が見つかるまで
見落としていた原子があるに違いないと考えた研究者達が,いろいろ工夫した室内実験を試みたが,対応する原子を見つけることができ なかったのです。超高層大気中には,地表付近には存在しない原子があるのではないかと言い出す物理学者もいたと言われています。
5577Å(557.7nm)の緑色の光は酸素原子が放出する光であることを突き止めるまでに, 70年以上の年月が必要だったのです。実験室で行われていた真空放電実験では,原子の中の電子が励起されて光を放出までに要する時間は,おおよそ10-9秒程度です。ところが,酸素原子が5577Å(557.7nm)の光を放出するには, 0.7秒という予想もできないほど長い時間が必要だったのです。このことが,謎が解けるまでに,70年以上もの年月を必要とした理由だったのです。また,夜空を真っ赤に焦がすように見える,波長6300Å(630nm)の暗赤色のオ−ロラの光は,酸素原子が励起状態のまま 148秒間という途方もなく長い時間存在し続けないといけないことも明らかにされたのです。
励起状態から,光を放出して安定な状態に戻るまでの時間が短い現象(蛍光)の他に,長い現象(燐光)もあることが明らかになったのです。オ−ロラの光はまさに“燐光”だったのです。励起状態のまま長い時間存在し続けるためには,物凄い真空度が要求されます。 実験室で真空放電管内をこの状態にすることはほとんど不可能に近いことです。オーロラが発光する約 100kmから500km上空の空気の量は,地表付近(1m3の中に1025個)の250万分の1から100億分の1という物凄い真空度です。しかも,上空になるほど急激に真空度を増すので,上空 300km以上では酸素原子が148秒間もの間,他の原子・分子と衝突することもなく励起状態を維持し続け,空を真っ赤に焦がすようなオ−ロラが見られるのです。
図4 Kiruna, Sweden で3日間にわたって観測したオーロラ
左;2000/11/20 中央;2000/11/21 右;2000/11/22