(6)オ−ロラの発光メカニズム
昔はオーロラを光らせるのは,太陽から放出された電子やイオンであると考えられていましたが,今ではオーロラを発光させている電子やイオンが太陽から吹いてきたものであると信じている研究者はほとんどいません。ロケットや人工衛星によって,磁気圏や惑星間空間が観測できるようになると,磁気嵐のメカニズムも,オ−ロラを光らせているメカニズムも 急速に明らかになってきたのです。
(a) オーロラは,「励起」された原子,分子,イオンが放出する光である
オ−ロラ光のスペクトル観測と真空放電実験との比較から,オーロラ光のスペクトルごとに,どの原子や分子をどの状態まで励起すれば発光するかがわかってきます。原子や分子を励起状態にするには,励起ポテンシャルエネルギーに近いエネルギーを与えることが必要です。オーロラカーテンの細い縞模様は,磁力線に沿って光っていることの証ですから,電離層領域の原子,分子,イオンを「励起状態」にし,発光させているのは,磁力線に沿って入射してくる高エネルギー電子やイオンと考えてよいのです(図1)。 図2は,磁力線に沿って電離層まで入射してきた高エネルギー電子が,回りの元素にエネルギーを与えてオーロラを発光させるメカニズムを概念図として示したものです。
図2を説明しておきます。磁力線に沿って入ってきた高エネルギー電子(e)が,まず窒素分子と衝突してエネルギーを与え,窒素分子から電子を1個『たたき出し』て <励起状態の窒素分子イオン(N2
+)>をつくりだすことから始まっています。<励起状態の窒素分子イオン(N2+)>は余分なエネルギー(励起エネルギー)を,強い紫外線(3914Å)として放出して,安定な状態に戻ります。窒素分子から『たたき出され』た二次電子(e’)も, 十分に大きなエネルギーをもっているので,まわりの酸素原子に衝突して酸素原子を励起し,緑色(5577Å)の光を放出して安定な状態に戻ります。<窒素分子イオン(N2+)>も磁力線に沿って動き出し,他の原子・分子と衝突し,オーロラのエネルギー源となることもあります。このようにして,2種類以上の色が混じったオーロラを発光させることができると考えられているのです。(b) 観測から明らかになった,オーロラの発光メカニズムで説明すべき事項
(c) 太陽活動−磁気嵐−オーロラの関係
太陽活動―磁気嵐―オーロラの関係をまとめたのが図3です。 太陽面上の大きな活動領域でフレアーが観測されると,時に活動領域の爆発が起こる。爆発で放出された大きなエネルギーをもったプラズマ流が前面に衝撃波を伴う形で地球磁気圏に衝突する。地球磁気圏は急激な圧縮を受け,磁気圏内で様々電磁気的な擾乱が発生する。地上では地球規模の磁気嵐が発生し,数日間続きます。高緯度地方では短い時間変動の激しい磁気擾乱が発生し,夜側を中心に活発なオーロラが夜空を染めるのです。
もっと 詳しい説明は,オーロラと磁気嵐の科学で説明するので,そちらを参照していただきますまが,太陽面から放出される爆発物のエネルギーが大きいほど,磁気嵐も激しく,オ−ロラ活動も活発になること は確かです。オ−ロラと磁気嵐との関係について調べた結果,高緯度の磁気嵐,特に短い時間スケールの地磁気変動(サブスト−ム)と非常によく対応していることも明らかなっ ています。
磁気嵐は,磁気圏(赤道環電流)や電離層(電離層電流)に流れる電流によって説明することができます。オ−ロラは,磁力線に添った電流(沿磁力線電流)で説明できると考えられているのです。この沿磁力線電流を担っているのは電子や+イオンであり,故郷は太陽から放出されたものではなく,磁気圏尾部で発生するエネルギー開放と関係して,磁気圏や電離層に存在していた電子や+イオンが加速されたものと考えられているのです。
オーロラ活動が激しくなったり,静かになったりするのも,沿磁力線電流が激しくなったり,静かになったり,電流をつくっている電子や+イオンのエネルギーが高くなったり,低くなったりするためと考えてよいでしょう。オーロラ活動が太陽から放出されるエネルギーと関係しているということは,沿磁力線電流を構成している電子や+イオンのエネルギーの値や量が支配されているということです。太陽活動のエネルギーがどのようにしてオーロラを光らせる電子や+イオンのエネルギーに変換されるのか? これがオーロラの謎解きなのです。