はじめに

  太陽は地球の母です。地球に降り注ぐ太陽エネルギーが海洋をつくり,生命を誕生させ,多種多様な生物が水中にも陸上にも生存できる,豊かな地球環境をつくってきたのです。 地球上の主なエネルギー源の種類と大きさを表1に示したが,地球に埋蔵されている化石燃料を全部加算しても,地球に入射している太陽エネルギーの10日分程度に過ぎ ないし,大きな災害をもたらす地震や台風のエネルギーは,太陽エネルギーの1日分にも満たないことがわかります。

  表1 地球上のエネルギー源と大きさ(地球に入射している太陽エネルギー1日分に対する相対的な大きさ)

エネルギーの種類

相対的な大きさ

地球に入射している1日分の太陽エネルギー

地球に埋蔵されている石炭の燃焼エネルギー(推定値)

13.1

地球に埋蔵されている石油の燃焼エネルギー(推定値)

1.2

地球に埋蔵されている天然ガスの燃焼エネルギー(推定値)

0.9

強い地震のエネルギー

0.01

平均的な台風のエネルギー

10-4

下に示したサイトは英語ですが,太陽についての基本事項の説明があり,映像もふんだんに使用しているので大変参考になります。

http://solarscience.msfc.nasa.gov/

(1)太陽はG型の主系列星

 a)スペクトル型

 太陽は,宇宙に数え切れないほど存在している星の中のひとつにすぎません。しかし,私たちの身近に存在している星であるため,特別な意味を持っているのです。太陽はどんな星の仲間なのか,星を分類することから説明します。

 a1)星の色の違い

 望遠鏡で星を眺めてすぐ気がつくのは,星によって色や明るさが違っていることです。図1は,代表的な星座の中に見られる色の違った星のスペクトル写真を ,上から青い星→白い星→黄色い星→赤い星の順に並べたものです。赤い光の強さは上の星から下の星まであまり変化しているようには見えませんが,青い光は上の星ほど強く,下の星になるほど弱くなっていることがわかります。また,どの星のスペクトルにも沢山の縦線が見えていますが,これは吸収線と呼ばれるものです。

 図1の右側に示したP,O,B,A,・・・は,星のスペクトル型(後で説明する)で,左側の ζPup,γOri,・・・は星名で先頭のα(アルフア),γ(ガンマ),・・のギリシャ文字は星座の中での明るさの順序 を示すもので,α(アルフア)が最も明るい星で ,β(ベータ),γ(ガンマ)・・・の順に暗くなります。後ろに続いている,Pup,Ori・・は星座名 を表しています。参考のため,日本の星座名を()内に書くと,Pup(とも座),Ori(オリオン座),CMa(おおいぬ座),CMi(こいぬ座),Aur(ぎょしゃ座),Boo(うしかい座),Cet(くじら座),Psc(うお座),And(アンドロメダ座)。M42はオリオン星雲 です。

 a2)星の色は表面温度を表している

 図2は,高温に熱した物体(黒体)が放射する光のスペクトルが温度によってどのように違っているかを,6,000K, 5,000K, 4,000Kについて示したものです。温度の高い物体(黒体)ほど 全放射エネルギーが大きく,最も強い光の波長(λm) が短くなることがわかります。最も強い光の波長(λm)は物体の温度T(K)に 逆比例しており,

    λm=0.289(cm)/T(K)

で表されることが実験的に確かめられ,ウイーンの変位則と呼ばれています。星が放射する光のスペクトルもウイーンの変位則に従っており,星の色は星の表面温度を表している ことがわかったのです。

 また,星のスペクトル写真に見られる吸収線(研究者の名前にちなんで,フラウンホーヘル線と呼ばれている)は,星の表面から放射された光が星の大気中で選択的に吸収されている様子を表し ていることがわかり,吸収線から星の大気組成の特徴を知ることができるのです。

 表2に示した星のスペクトルに見られる吸収線の特徴も考慮して,星を表面温度順に分類したのが星のスペクトル型です。基本的には,表面温度の高い順に,

  O(青)―B―A(白色)―F―G(黄色)―K(橙色)―M(赤)

型に分類されています。さらに細分するときは,B0,B1,B2,・・・,B9のように,スペクトル型の後ろに0〜9までの数値をつけて10段階に分類しています。

 K型とM型に属する星のスペクトル型を調べると,違った特徴的な吸収線を示す星が沢山あり,違ったグループとして細分した方がよいこともわかりました。それで, 表面温度はG型と変わらないが,特殊なスペクトルを示す星のグループをR型とN型に分類し,K型のなかでも,特殊なスペクトルを示す星のグループを,S型と細分しています。

 従来はM型が最も低温の星とされていたのですが,観測精度が高くなってくると,より暗い星(低温の星)まで見えるようになり,表面温度2,000kから1,300kくらいまでの 星のグループをL型,さらに低温の星のグループをT型と分類しています(表2)。

 表2 恒星のスペクトル型(スペクトル型の色と特徴的な吸収線)

スペク
トル型
温度(K)
主な特徴(どのような吸収線が強いのかを示す),T;中性,U;1回電離,V;2回電離,・・・を表す。
O
30000 - 50000
一回電離ヘリウム(HeU)の線(時に輝線)が見えます. 中性ヘリウム(HeI)の線がO9に向って強くなります.水素のバルマー線や高階電離金属線(SiV,NV,OV)が見えます.
B
10000 - 30000
HeUは見えず,HeIの線はB2で最も強い. 水素のバルマー線はB9に向って強くなります。 回電離金属線(MgUSiU)が見えます.
A
7500 - 10000
青白
水素のバルマー線が最も強い(A0). 一回電離金属線(MgUSiU)A5で最も強いCaU(H,K )が強くなります.
F
6000 - 7500
バルマー線が弱くなり,CaU(HK )が強くなります.中性金属線(CaIFeICrIMnT)がめだってきます.
G
5300 - 6000
バルマー線はさらに弱まり,CaU(HK )が最強.中性金属線が強くなります。CH分子のバンド(Gバンド)が見え ます.
K
4000 - 5300
バルマー線はほとんど見えません. CaU(HK )は強く,中性金属線は重なり合い, TiO分子の吸収帯が見え始めます.
M
3000 - 4000
中性金属線が非常に強い. TiO分子の吸収帯が最も強くなります.
L
1300 - 3000
暗赤
CrUFeUなど水素と金属の分子吸収帯や中性金属の吸収帯が強い. TiOVOなどはほとんど見えません.
T
750 - 1000
暗赤
木星のようにメタンCH4のバンドが強い.

恒星のスペクトル型について,もっと詳しく知りたい人は,下記のサイトを参照してください。

http://www.shokabo.co.jp/sp_opt/star/list/list.htm

 a3)星の明るさの違い

 望遠鏡で観測できるもう一つの物理量は,星の明るさの違いで,1等星,2等星などと,星の明るさの違いを等級で表しています。肉眼や望遠鏡で見る星の明るさを『実視等級』と呼んでいます 。当然のことですが,近くにあるほど明るい星になるので,星までの距離の差を取り除いた本当の明るさを比べるためにつくられたのが『絶対等級』です。星の放射している『本当の明るさ』といえます。

 『絶対等級』は,星までの距離を測定して,『実視等級』を同じ距離(32.6光年=1パーセク)の明るさに直したものです。32.6光年より遠くにある星は『実視等級』より『絶対等級』の方が明るくなるし,近くにある星は逆に,暗くなります。また,同じ距離にある星なら,図2に示したように,温度の高い星ほど明るく見えるし,温度の等しい星で比べると,大きい星ほど明るく見えるはずです。『絶対等級』は,<星の表面温度>と<星の大きさ>によって定まるのです。

 b)HR図(ヘルツスプルング・ラッセル図)

 星の明るさ(『絶対等級』)とスペクトル(表面温度)を観測し,縦軸に星の明るさ(『絶対等級』)を,横軸にスペクトル(表面温度)をとっ て,沢山の観測値をプロットしたグラフがHR図(ヘルツスプルング・ラッセル図)と呼 ばれるものです(図3)。図3から明らかなように,沢山の星はいくつかのグループに分かれて規則的に分布しており,それぞれのグループを,超巨星(Ta,b), 巨星(V),主系列星(X)と呼んでいます。

 温度の高いO型やB型の星は狭い範囲に分布しており,星の明るさの差は小さいのですが,温度の低いK型やM型の星(図3の右の方に位置する星の仲間)は,非常に明るい星 のグループから暗い星のグループまで,4つのグループに分かれて分布していることもよくわかります。温度が等しいのに明るさが大きく違っているのは,星の大きさが原因なのです。

 c)太陽の将来の姿

 現在の太陽が,HR図上でどのような位置にあるのかを示したのが図 4で,現在の太陽はG型の主系列星であることがわかります。

  しかし,太陽は進化しており,いつまでもこの位置にとどまっているわけではありません。 太陽が将来どのように変化すると予想されているかを,HR図の中で示したのが図5の白い線です。

  現在は 白い線の始点1(G型の主系列星)ですが,将来は次第に膨張しながら明るさを増して赤色巨星2になり,その後,膨張した外層部は太陽本体から散逸し始め,次第に高温の中心部が透けて見えるようになり(3),膨張した外層部が完全に散逸してしまうと,中心部だけの白色矮星(4)になると予想されています。太陽が膨張して赤色巨星になる頃には,地球は太陽の中に飲み込まれてしまうと考えられていますが,はるか遠い50億年も先の話です。

 

 

(2)太陽光の源は中心部での核融合反応

 現在の太陽は主系列星の仲間で,約46億年間,ほぼ一定の明るさで輝き続けてきたと考えられています。主系列星の仲間にはもっと長い間輝き続けている星もあり,主系列星として輝いているエネルギー源は,原子核(融合)エネルギー以外あり得ないと考えられていました(1938年,ベーテとワイゼッカー)。

 a)4つの水素原子核から1つのヘリウム原子核を合成する

 原子核物理学が確立すると,星の中心温度が約1,000万Kに達すると,4つの水素原子核が融合して1つのヘリウム原子核を合成する反応が起こることや,この反応で放出するエネルギーは,主系列星の放出している光を十分にまかなえることが明らかになったのです。

 図2.1に示した,太陽中心部でおこっている主要な核融合反応は,p−p Chain呼ばれ,反応式で表すと下記のようになります。

    発生するエネルギー  

寿 命

1 + H1 2 +ν  

2.38MeV  

9×109

1 2 =He3 + γ  

10.98MeV  

3秒

He3 He3 =He4 +H1  

12.85MeV  

2.5×102

  e+;陽電子(電子の反粒子)

  ν(ニュー);ニュートリノ

  γ(ガンマー);ガンマー線

b)コントロールされた核融合反応

 核融合反応が起こるようになると,太陽中心部では膨大なエネルギーが発生し,中心温度は上昇し ,外向きに熱を放出しているのです。 温度が高いほど,核磁合反応効率はよいので,中心温度の上昇が抑えられて一定に保たれていないと,核融合反応は暴走してしまうのです。

  太陽がほぼ一定の明るさで輝き続けているのは,核融合反応で中心部の温度が上昇すると,中心部が膨張してエネルギーを消費し, 逆に,中心温度が下降しすぎると中心部が収縮して温度を上昇させことを繰り返して,太陽中心部の温度を一定に保つ自已調節機能が働いている と考えられているのです。これは太陽に限ったことではなく,全ての主系列星の中心部で,核融合反応はほぼ一定の割合で起こるようにコントロールされているのです。

 c)太陽はわが身を削って輝いている

 水素原子の原子量は1.007825,ヘリウムの原子量は4.00260ですから,4つの水素原子核から1つのヘリウム原子核を合成する反応で

  1.007825×4− 4.00260=0.029 

だけの質量が消失しているのです。この消失した質量が,太陽光の源です。消失した質量をとすると,放出されるエネルギーは mC2(Cは光速)で表されることがわかっています。

  太陽の明るさは,3.86×1026ワット(=3.86×1026J/s =3.86×1033erg/s)ですから,

 E=mC2(Cは光速)に代入して,太陽が1秒間に消失する質量 を計算すると,

    =3.86×1033/(3×1010)2=4.3×1012g=430万トン

と求まります。50億年間,同じ割合で質量を失ってきたとすると,現在の太陽は約100分の1だけ軽くなったことになります。

d)太陽中心部で核融合反応が起こっている証拠が見つかった

 反応式でも示しましたが,核融合反応で重い原子核が合成されるときニュートリノ(ν)が発生します。ニュートリノ(ν)は電荷を持たず,他の粒子と結合したり衝突したりする確率も非常に小さいため,放出されたニュートリノ(ν)は物質と反応することもなく,光速で太陽内部を通り抜け,太陽表面から宇宙空間に飛び出すと考えられています。

  今年(2003年)の ノーベル物理学賞受賞で有名になった,日本の誇るニュートリノ観測装置;カミオカンデが太陽ニュートリノ(ν)も捕まえることに成功し,太陽中心部で核融合反応が起こっていることを実証したのです。

  外国の結果を含めても,観測された太陽ニュートリノ(ν)の量から推測した太陽中心部での核融合反応では,現在の太陽が放射しているエネルギー量をまかなうことはできないともいわれています。 発生したニュートリノがどこかへ逃げてしまっていると考えている人もいるし,観測精度の問題や,太陽中心部で発生した熱が太陽内部を輸送し,太陽表面から光として放射されるまでには数百万年もかかるという問題もあ って,簡単に結論付けてしまうことはできません。これから,どのような研究が進むのか楽しみでもあります。

 (3)太陽の構造

 太陽構造の概略を示したのが図3.1です。太陽全体の約25%程度を占める『中心核』で核融合反応は起こっていると考えられています。核融合反応で発生したエネルギーが太陽表面まで運ばれているのです。

太陽内部のエネルギー輸送形態として,太陽全体の約45%に相当する領域では「放射で輸送」されており(『放射層』),表面から約30%の領域は「対流によるエネルギー輸送」が卓越していると考えられています(『対流層』)。

太陽は誕生以来,約50億年間,大きさも変わらず,ほぼ同じ明るさで輝き続けているのは, 前に説明した中心核での核融合反応は一定になるようにコントロールされていることに加え,太陽内部の熱輸送が安定しており,太陽内部の温度分布も常に一定に保たれているためなのです。

(3.1)太陽の内部構造

a)太陽内部のエネルギー輸送

核融合反応で発生したエネルギーは,“最もエネルギーの大きい光;γ(ガンマ) 線”として放射され,中心核を取り囲む領域に吸収され,その領域を加熱します。加熱された領域は,吸収したエネルギーに見合ったエネルギーを“よりエネルギーの小さい光(波長の長い光 ;X線や紫外線)”に変換して放射し,一定の温度を維持するのです。 このように次々と“よりエネルギーの小さい光(波長の長い光)”に変換しながら,エネルギーを輸送しているのが『放射輸送』で, 太陽内部のエネルギー輸送の基本です。『放射輸送』は光による輸送ですが,高密度物質内での吸収・放射であるため,『放射層』内を輸送するのに100万年もかかると推定されています。放射輸送は太陽表面まで続いているのですが,太陽表面 から約30%の領域では『対流輸送』が卓越しているため,『放射層』と『対流層』に区別しているのです。

太陽内部の放射によるエネルギーの伝わりやすさ(放射輸送効率)は温度と圧力の関数として計算することができます。 観測された太陽の大きさ・質量・表面温度を与え,太陽は力学的に安定で,現在と同じ放射エネルギーを放出し続けているという条件の下に計算した太陽内部の温度分布と密度分布が図3.2で,

中心温度は約1500K,密度は150g/cm3

と求まり,中心核では水素からヘリウムヘの核融合反応が起こり得ることを示しています。

b)太陽粒状斑は,表層近くでは対流輸送が卓越していることの証

図3.3は望遠鏡で拡大した光球面の写真で,粒つぶした構造は太陽粒状斑と呼ばれています。 図から明らかなように,粒状斑で明るく,粒状斑間隙で暗いことがわかります。明暗の差は,放射している光のドップラー効果で解釈できるといわれています。

少し説明すると,太陽スペクトルに見られる吸収線の波長を調べるとは,粒状斑の中では青い方に,粒状斑間隙では赤い方にずれており,波長のずれは 粒状斑では外向きに,粒状斑間隙では内向きに動いていることで生じるドップラー効果でうまく説明できることが明らかになったのです。

観測される粒状斑は,太陽表面層で対流が起こっている証であり,太陽の内部構造が『放射層』と『対流層』に区分される根拠にもなったのです。

太陽表面近くで対流が起こる理由も,少しだけ説明しておきます。 太陽内部から運ばれてきたエネルギーを外側に輸送するということは,エネルギーを吸収して膨張し,見合ったエネルギーを放射して収縮することの繰り返しです。

 問題になるのは,エネルギーが膨張・収縮以外に消費されることは無いのかということです。 太陽の大部分は水素ですが,非常に高温であるため水素原子は原子核(プロトン)と電子に分かれた状態で存在しています。十分に高温である太陽 内部では膨張して温度が下がっても電離状態に変化は起こりませんが,温度が低い太陽表面近くでは,一部のプロトンと電子の再結合という電離状態の変化が起こります。 再結合する際放出する結合エネルギーは温度降下を抑制するため,電離状態の変化が起こる層では浮力を得て上昇し,対流運動が起こると考えられているのです。

 この解釈は太陽に限定されることではないので,表面温度が太陽程度の主系列星の表面層では対流が起こっていると考えて間違いありません。一方,表面温度の高い主系列星では電離状態の変化は起こりえず,表面近くに対流層は存在せず,粒状斑も存在しないことになります。

(3.2)太陽大気の構造

a)光球

白色光(可視光線)で撮影した太陽像には,大小さまざまな形の黒点 が見られます。黒点付近を拡大してみると,太陽中央部 の黒点付近は図3.4のように,太陽周縁部の黒点付近は図3.5のように,違って見えます

太陽中央部の拡大写真は 太陽を真上から見ており,粒状班ははっきりしており,大きな黒点は暗部と半暗部に分かれています。一方,太陽周縁部の拡大写真は太陽を斜め方向から見ており,黒点は窪んだように見え,半暗部ははっきりしません。 また,周縁部の拡大写真では粒状班もはっきりせず,黒点の周辺で白く光っている白斑が目立ちます。この違いは,太陽表面をまっすぐ上から見るか,斜め方向から見るかによって生じているのです。

黒点は局所的に磁場が強くなっているところで,図3.6に示すように,磁力線の傾きは暗部中心から外側に行くほど大きくなって おり,半暗部が暗部中心から放射状にひろがって見える構造は,磁力線の傾きとよく対応していることがわかります。

黒点が黒く見えるのは,周囲よりも温度が低いためで,黒点磁場は内部からの熱輸送を邪魔していることを意味しているのです。

太陽周縁部の黒点付近で見られる白く光っている白斑(図3.4)も磁場の強いところです。白く光っている小さな粒々は周囲より明るく輝いているためで,温度が高い可能性があります。どうして明るく光るのかについての説明も ,いくつかなされていますが,長くなるのでここで紹介することは省略します。関心のある人は調べてみてください。

太陽光の周縁減光を利用して,光球底部から 彩層(上空約2000km) までの太陽大気の温度構造が調べられていえるので,簡単に紹介しておきます。図3.7に示すように,温度は光球底部から高さと共に低下し, 彩層の下層で約4,200Kの極小温度に達しそれより上 の彩層では,温度は高さとともに上昇し,彩層より上層のコロナは桁違いに高温で,100万Kにも達していることもわかっています。

熱は温度の高い領域から低い領域に流れるので極小温度 に達する高度までは太陽内部からの熱輸送で説明できます。それより上層で高さと共に温度が上昇しているのは,他からのエネルギー供給があることを暗示しており,極小温度より上層と下層では物理的に性質の異なった大気 だと考えられているのです。

(b)彩 層

太陽スペクトルには,沢山の吸収線(黒い線)が見られることは前に説明しました。最も強い吸収線は水素による Ha線(356.281nm)カルシュウムイオン(Ca+)による(396.849nm)と K線(393.36nm)です。これは光球上部の彩層に水素のほかにカルシュウムイオン(Ca+)が沢山存在していることを示すもので,彩層は吸収線と同じ波長の単色光を放射していることを意味して おり,彩層はこのような光を利用して調べられているのです。

(Ca+)線(393.36nm)で撮影した彩層の様子 を図3.8に,Ha線(356.281nm)で撮影した彩層の様子 を図3.9に示しました。図3.8では,黒点周囲に点在する白く光った領域が見えており,図3.9では白く光った領域のほかに濃淡さまざまのコントラスト や,黒く伸びた構造も見えています。白く輝いているのはプラージュ と呼ばれるもので,黒くのびた構造ファイブリルとかスレッドと呼ばれています。

彩層の大気密度は小さく黒点付近の活動領域では磁場のエネルギーのほうが気体の運動エネルギーよりも大きくなっており,彩層内の気体運動は磁場の影響を強く受けており,黒くのびたファイブリルとかスレッドと呼ばれる構造は磁力線に沿ったガスの流れであり白く輝くプラージュは 磁力線が彩層に垂直に立っており,その切り口であろうといわれています。

(c)コロナ

図3.10は皆既日食のときに撮影したコロナ写真です 。地上観測が主流のときは,皆既日食のときのコロナ観測か,光球面を覆って観測するコロナグラフを利用した研究しかできませんでした(参考;コロナを構成している自由電子は光球面から放射されている白色光を散乱しているため,光球面 からの光を遮断すれば白色光でコロナを観測できるのです)。

 現在のコロナ研究は,図3.11に示すような,人工衛星を利用したX線観測が主流になっています。コロナのダイナミックな構造変化をほぼリアルタイムで送ってきており,研究 急速に進展したのです。コロナは太陽半径の数10倍にも広がっており,温度は100Kにも達し ,密度はきわめて小さく熱伝導が非常によいためコロナ全体が100Kの等温大気であると考えても大きな間違いはありません。

したがって熱運動は活発で, コロナガスは太陽重力に逆らって外側に流れ出そうとする力が非常に大きく惑星間空間に太陽風として流出しているのです。

よく調べてみるとコロナは決して一様でなくいろいろな構造を持っていることもわかってきました。活発な黒点群が太陽の縁で観測されるときにはその上部に明るく輝くコロナの凝縮雲が見られることもあります。また太陽の縁にプロミネンスがあるとコロナの明るい部分と暗い部分がプロミネンスを同心円状に取り囲みその上にずっと外部まで伸びたストリーマーと呼ばれる構造が見られることもあります。 

(d) コロナホール

コロナホールの発見はスペース シャトルや人工衛星を利用して紫外線やX線でコロナの観測が行われるようになってからの最大の発見といわれてい ます。コロナからのX線放射を観測していると周りに比べて放射量が極端に少なく ,ぽっかりと穴が開いたかのように黒く見える領域が現われ時には太陽面上でかなりの面積を占め太陽自転と共に東から西にめぐり数カ月にもわたって存在 し続けることがあることがわかってきました。あたかもコロナに穴が開いたように見えることからこの領域をコロナホールと呼んでいるのです。コロナホールでは密度は平均的なコロナの10%ぐらいしかなく温度も低いことも明らかにされてい ます。

 コロナホールでは,磁力線は惑星空間に向かって開いており,コロナガスとエネルギーは磁力線に添って抵抗なく惑星空間に流れ出しているため ,低温度・低密度状態になっているのだと解釈されています。この領域から流れ出す太陽風は速度が大きく,27日回帰性オーロラや磁気嵐と関係していると考えられています。

(4)太陽光は不変ではない

 地球公転軌道上の単位面積・単位時間当たりに入射する太陽光(平均太陽放射エネルギー)は一定であり,”太陽定数(=1.37KW/m2 =1.96cal/cm2min)”として扱われてきた。 太陽光(太陽放射エネルギー)は太陽中心部での"核融合反応"でつくられているため変動しないという考えと,地上観測では,常に大気の影響を受けるため,数%以下の変動を議論することはできなかったことに起因していた。

 太陽面で観測される黒点やフレアー活動は,『太陽活動極大期』と『太陽活動極小期』では大きく違っており,太陽光も変化すると考える研究者は多かったのですが,変化しているという証拠を見つけることができなかったのです。

 (4.1)太陽光(太陽放射エネルギー)は変動している

 太陽光(平均太陽放射エネルギー)が変化していることが明らかになったのは, 大気圏外で人工衛星による連続観測が行われるようにってからのことです。1978年に人工衛星Nimbus-7によって観測されて以来, 多くの人工衛星が打ち上げられ,大気圏外での太陽光(平均太陽放射エネルギー)観測は続けられています。

 図4.1に異なった観測機器によって観測された1978年から2005年までの太陽光(平均太陽放射エネルギー)の経年変化を示した。図の中で,ERB,ACRIMT,U,V,NOAA9,10,SOVA2,ERBEは人工衛星に搭載された観測機器の名称です。図4.1には,この期間の黒点数(Sunspot Number)の経年変化も示してあります。観測機器による観測値の違いはありますが,経年変化の傾向はほぼ等しく,黒点数の経年変化とよく対応していることが明らかになったのです。

英語の論文ですが,もう少し詳しく調べてあるので,下記のサイトをクリックして,参考にしてください。

タイトル;Long-term drift of the coronal source magnetic flux and the total solar irradiance

http://www.wdc.rl.ac.uk/wdcc1/papers/grl.html

 (4.2)太陽光(太陽放射エネルギー)を変動させているのは

 太陽光と黒点数の経年変化がよく対応する原因を考えてみます。黒点は温度の低い領域なので,太陽光を弱めます。どれだけ弱めるかを推定するために,光球面に占める黒点領域の割合に依存することを考慮した『黒点による減光指標(PSI)』が計算され,公開されています。太陽活動が活発になると 増える白斑は温度が高い領域なので,太陽光を強めます。どれだけ強めるかについても,『白斑による増光指標(PFI)』が 計算され,公開されています。

 黒点や白斑が日よって大きく変動する太陽活動極大期の1999年1月1日から12月31日までの毎日の観測データを用いて解析した例を紹介します。図4.2が,太陽光(太陽放射エネルギー)と『黒点による減光指標(PSI)』との関係を示した散布図で す。太陽光(太陽放射エネルギー)の観測値をy,『黒点による減光指標(PSI)』をxとすると,

y =0.001x + 1373R = 0.757 (R;相関係数)   (1)

と,yはxの1次式で近似することができ,相関係数(R2=0.757)も大きいことがわかります。この結果は,太陽半球に占める黒点の割合が大きくなるほど,太陽光(太陽放射エネルギー)は弱くなることを示しており, 黒点数が多い年ほど太陽光(太陽放射エネルギー)は強くなっていることと矛盾しています(参考;人工衛星による太陽放射エネルギーの観測が始まる前には,太陽拓道が活発になると,太陽光は弱まると解釈する方が優勢だったのです)。

 図4.3は太陽光(太陽放射エネルギー)と『白斑による増光指標(PFI)』との関係を示した散布図です,バラつきが多く無関係といってもよい。

  (参考;  PSI=Photometric Sunspot Index, PFI=Photometric Facular Index)

 太陽光(太陽放射エネルギー)の観測値から(1) の式を用いて,『黒点による減光指標(PSI)』分を 取り除いた<PSI補正値>を計算し,<PSI補正値>と『白斑による増光指標(PFI)』との関係を散布図として示したのが図4.4です。 この図は,太陽活動極小期に近い1985年から太陽活動極大期を過ぎたばかりの1992年までの観測値について調べたものです。

 この結果は,活発な黒点が沢山現れた日は白斑による増光が大きく,太陽光(太陽放射エネルギー)は強くなっていることを示しているのです。相関係数(R2=0.8059)も大きく,毎日の太陽光(太陽放射エネルギー)『白斑による増光指標(PFI)』と強い正の相関があることがわかります。

 人工衛星観測によって明らかになった,太陽活動が活発になると太陽光(太陽放射エネルギー)が強まる結果は,黒点の周りに現われる白斑による増光が太陽光(太陽放射エネルギー)の変動を支配していることを示していると考えてよい。

 太陽活動と気候との関係についての研究の歴史ふるいのですが,いまだに明らかにされていない問題です。人工衛星による太陽光の連続観測によって,太陽光(太陽放射エネルギー)は太陽活動の11年周期変動とよく対応していることが明らかになりましたが,変動は0.3%以下と小さく,気候への影響がどれだけあるのかを判断することはなかなか困難です

 黒点数の記録を調べると,図4.5に示すように,1645年頃から1715年頃までの約70年間,黒点がほとんど現れなかった時期があり,『マウンダー極小期』と呼ばれています 。

 『マウンダー極小期』の期間は地球規模での寒冷化がもっとも進んだ時期に対応しており,太陽活動衰退による,太陽光(太陽放射エネルギー)の減少が原因であると考える研究者は多かったのです。

 しかし,マウンダー極小期に太陽光(太陽放射エネルギー)が減少したかどうかも不明で,未解決のままでした。最近の研究成果に基づいて,『マウンダー極小期』の太陽光(太陽放射エネルギー)を推定し,寒冷化の原因は太陽光(太陽放射エネルギー)の減少で説明できると指摘する研究者もいます。『マウンダー極小期』は300年前のことですが,これからも太陽活動が極端に衰退し,太陽の恵みが減少する可能性はいくらでもあるのです。

(5)活動する太陽

  望遠鏡で太陽を観測すると大小さまざまな黒点が見えます。毎日観測を続けていると,黒点の大きさや形が変化することや,黒点数が多くなったり少なくなったりしていることもわかります。長い期間の 黒点観測から,黒点数は約11年周期で多くなったり少なくなったりを繰り返していることわかったのです。大きな黒点が観測されると,太陽面でフレアーと呼ばれる爆発現象が発生し,数日後に地球で磁気嵐が起り,オーロラが空を舞うこともはっきりしました。黒点が多く観測される年は,磁気嵐が発生することが多く,オーロラが見られる機会も増えることも明らかになったのです。このように太陽は比較的静かにしている時期や,激しく活動している時期があるのです。それで,黒点数が極大になる年を太陽活動極大期,極小になる年を太陽活動極小期と呼んでいるのです。

 人工衛星による太陽観測が始まると,空気が邪魔をするため,地上観測では不可能だった紫外線やX線で太陽を見ることができるようになり,活動する太陽の様子が次々に明らかになってきたのです。現在では,人工衛星が太陽を連続的に監視しており,『宇宙天気予報』や『オーロラ予報』さえ行われているのです。

 下記のサイトをクリックし,左上の [THE SUN NOW]の太陽像をクリックすると,人工衛星から撮影された最新の太陽像を見ることができます。このサイトには,人工衛星で観測している太陽,太陽風の情報がびっしりと詰まっています。 英語ですが,アニメーションをはじめ,動く映像も用意されているので,是非,覗いてみてください。

http://sohowww.nascom.nasa.gov/

 サイトの少し詳しい紹介;上のサイトを開いたら,左上の[THE SUN NOW]の太陽像をクリック;いろいろな光で撮影した太陽像が見られます(主として,紫外線・X線)。像をクリックすると,拡大写真になります。

 画面下のほうの[REAL TIME MOVIES]の{MPEG}をクリックすると,太陽像を動画で見られます。ほとんどのパソコンが備えていると思いますが,RealOne Player が必要です。

  下記のサイトには,沢山の黒点や黒点領域で見られるさまざまな活動の様子が提供されています。クリックして開いてみてください。

http://www.pbase.com/gordg3/solar_astronomy

(5.1)宇宙天気予報

太陽面でフレアー(爆発現象)が観測されると数日後には地球では磁気嵐が起こりオーロラが観測されることが明らかになった(図5.1)ので,人工衛星で太陽面現象と太陽風を監視して,磁気嵐やオーロラの発生を予報するのが,宇宙天気予報です。宇宙天気予報のため,人工衛星が太陽・惑星間空間・地球を監視している様子を示したのが図5.2です。1997年1月6日に太陽面でフレアーが発生すると,地球近傍の惑星間空間で1月10〜11日かけて太陽風の変動が観測され,少し遅れて地球でオーロラが観測された例です。

太陽活動と地球との関係について,もう少し知りたい人のために,イメージギャラリーを紹介します。下記のサイトをクリックしてください。

http://sec.gsfc.nasa.gov/sec_resources_imagegallery.htm

http://svs.gsfc.nasa.gov/Gallery/Sun-EarthConnection.html

 

(5.2)月平均黒点数の長期変動

図5.3に示すように,月平均黒点数は約11年周期で変動しており,黒点数の極小期から次の極小期までを一太陽周期(1 Solar Cycle)と呼んでいます。黒点が発生する緯度分布を調べると,図5.4にバタフライダイアグラムとして示したように,まず南北両半球の中緯度で発生し,太陽活動が活発になるにつれ,低緯度に向かって移動しながら広い範囲で発生し,太陽活動極小期には赤道に近いところだけで発生するようになり,これを規則的に繰り返しています。

太陽活動が活発な時期にはコロナガスからのX線放射も強く,太陽活動が弱まるとX線放射も弱まることも明らかになっています(図5.5)。図5.4から明らかなように,黒点は南北半球でほぼ対称形に発生しているのがわかります。黒点の磁場構造まで詳しく調べてみると,一般に,N極とS極の黒点が対になって存在していることがわかりました。しかも,1太陽周期の間,N極とS極の順序は一つの半球では全部同じで,図5.6に示すように,その順序が南北半球で逆転しているのです。さらに不思議なことに,次の太陽周期になると,それぞれの半球で,N極とS極の順序が逆転するのです。太陽活動には22年周期があるといわれるのはこのためです。

下の図をクリックすると,大きいサイズの図になります。

図5.3 黒点数の長期変動

1750年からの月平均黒点数の変動。約11年周期で変動していることがわかる

図5.4 バタフライ・ダイアグラム

発生した黒点を太陽緯度圏に沿ってプロットすると,11年周期で蝶型分布を示す。

図5.5 X線で見た太陽活動の11年周期変動

太陽活動極大期には,ほぼ太陽全面から強いX線を放射し,太陽活動が弱まると,X線の放射も弱まる。

図5.6 黒点はN極とS極がついになっている

北半球の黒点対がNSの順序になっていると,南半球の黒点対は逆で,SNの順序になっている。しかも,1太陽周期毎にこの関係が逆転する。

(5.3)黒点の発生機構と,フレアー(太陽面爆発)機構

黒点の発生機構;図5.6に示したように,黒点は磁場の強いところで,基本的にはN (+) 極とS(−)極が対になっていることがわかっています。磁石のN (+) 極の黒点とS(−)の黒点が対になって発生していることを説明するため,1953年にパーカーが考えた説を紹介しておきます。

5.7(a)に示すように,太陽表面近くの対流層には太陽面にほぼ平行な磁力線が走っていると考えられているのです。太陽表面近くの対流層内で沸騰のような運動でプラズマが表面へと押し上げられると,電気伝導度が高いため,プラズマと一緒に磁力線も太陽表面へと上昇し,ついには表面の外まで噴出してくることがあるはずだと考えたのです(b),(c),(d)。図5.7の(c)や(d)で示した磁力線が太陽表面と交わっているところが黒点だとする考えで,必然的にN極(+)とS極(−)が対になって誕生することになるのです。

 黒点対の磁極が南北半球で逆になっている理由;図5.7に示した,太陽表面近くの対流層に存在している太陽面に平行な磁力線の源は,太陽の南北方向に伸びた形をしていた磁力線です(図5.8)。流体運動が激しく起こっている対流層の中では,赤道加速と呼ばれる微分回転の流れがあり,赤道で最も速く自転しており,両極に向かって自転速度が遅くなっているのです。そのため対流層内の磁力線は東西方向に引き伸ばされ,最終的には太陽面にほぼ平行な磁力線が存在することになるのです。平行な磁力線の方向は,北半球で東向きだと,南半球では西向きになるため,黒点対の磁極は南半球と北半球では逆になるのです。黒点群がほぼ緯度線に沿って現れることも説明できるのです。

 フレアー(太陽面爆発)の機構;黒点対領域の活動が活発になると,磁力線をともなったコロナガスが激しく上昇するようになり, 図5.9Aに示すような磁気中性面が形成される。磁気中性面に激しい変動が加えられと,黒点対上層で磁力線の再結合が起こり(図5.9B),太陽表面に近い側では黒点に向かっての急速なプラズマの流れが起こり,反対側では大きなプラズマ雲が磁力線を閉じ込めたまま上昇し宇宙空間に飛び出す(図5.9C)。これがフレアー機構の基本だと考えられています。

磁気中性面での再結合によって放出されたエネルギーによって,フレアー以外にも黒点対領域ではさまざまな現象が引き起こされるのです(図5.10)。黒点に流れ込んできたプラズマ流の激しい衝突によって,強いγ線,X線,紫外線などの放出が観測されます。結合領域からは電波バーストと呼ばれていますが,広い波長域に渡って電磁波が放射されることも観測から明らかになっています。下の図をクリックすると,大きいサイズの図になります。

図5.7 対流層内の光球面に平行な磁力線が浮き出して黒点ができる

図5.8 南北半球で黒点対の極性が逆になる理由

図5.9 磁力線の再結合エネルギーがフレアーの源

図5.10 フレアーにともなって放射される電磁波

(5.4)太陽極域磁場の長期変動 

  2,012年9月、トピックスで取り上げたように、太陽極域磁場変動が話題になったので、<太陽極域磁場の変動>について説明しておきます。トピックスで取り上げた話題と一緒に読んでください。

 太陽極域磁場は、前節「(5.3)黒点の発生機構と、フレアー(太陽面爆発)」で説明したように、太陽表面近くの対流層に存在している南北磁場と、極域近くに存在している黒点磁場の南北成分が加算されたものと考えられています(図5.11)。

  黒点が極域近くに発生するのは、これまでの研究で、図5.12に示すように、太陽活動が活発になる時期だと言うことがわかっています。

 図5.12の上半分は縦軸に太陽緯度をとり、横軸を時間軸にして黒点の発生する場所を太陽面上にプロットしたものです。黒点の発生する場所は太陽活動度によって変化しており、 活動が活発になると、発生する場所が低緯度から高緯度まで広がり、極大を過ぎると、高緯度から黒点は消失し、急速に減少していくため、長期変動で観ると、図5.12に示すように、あたかも蝶々(Butterfly type)が連続した形にになることがわかったのです。

 

 図5.12の下半分は、黒点数の時間変化を示したものです。極域に黒点が発生するのは黒点数が多い時期に対応しており、太陽活動極大期であることが明らかでしょう(図中の青枠で示す)。

 トピックスで取り上げた、太陽極域磁場の極性反転ついては、図5.13に示すように、太陽北極域と南極域で反対の磁極を 保ったまま、短い周期変動を伴った磁場強度を0から+(−)の極大を経て0へ、再び0から−(+)の極大を経て0へと、約22年周期で変動していることがわかります。

 極性の反転は、図5.13で強度0の線を横切ることですから、図から明らかなように、南極域でも北極域でも0を横切るのは1回だけとは限らず、時には複数回横切っていることもわかる ります。しかも赤い線と青い線の動きから、0の線を横切るのは南極域と北極域では必ずしも同時と言うことでもないことも明らかです。

 図5.13の中で、Maximum(太陽活動極大期)と示した近くで、極性の反転が起こっていることもお分かりのことと思います。

 図5.12の説明と合わせて考えると、太陽活動が活発になる極大期近くに極域近くまで黒点が発生し、 たまたま条件が重なると、極域付近の磁場が0となり、磁極の反転が起こると考えてよいのではないでしょうか。南北半球で極域付近の極性反転が同時に起こるということは、偶然の一致と考える方がよいと思います。